時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

MOTコレクション コレクションを巻き戻す 2nd@東京都現代美術館

www.mot-art-museum.jp

書き手は現代美術は正直難しいのだけど、コレクション展に入れるならお邪魔してみよう、という感じで。

で。
実はコレクション展、ほぼ写真NG。
これは…覚えていられるのか、書き手…と心配に。
凄く丁寧な冊子状のパンフレットはあるけれど、全部写真が載っているわけでもないし。

あ、あと、途中で小倉遊亀とか梅原龍三郎が展示されていたりして、結構境目が曖昧になりそうな感じもあったりした。


気になった作品を挙げていく。

菊畑茂久馬「奴隷系図(貨幣による)」。
置かれている2本の丸太に、硬貨が貼られたり置かれてたり、でもって蝋燭が周囲に立ってる。…新手の神道と言われたら信じるぞ、これ。
これ、最初にどこに作品名が書かれているのか分からなくて、後で解説のシートが置かれているのを見つけて、タイトルを知った次第。ううむ。
なお、5円玉は10万円分使っているそうなんだが、展示された後に作者が数えたら(いちいち数えるのも凄い)、10万円以上あって、10円玉も混じっていたとか。お賽銭をついあげてしまう日本人の心情よ…。

上田薫「コップの水」。
…ああ、「なま玉子」シリーズの方か!
コップと水の写実画。写実はやっぱり気になってしまう。

菅木志雄「界の仕切り」。
木があちこちに立っていて、その木同士を様々な高さ(と言っても一番高くて腰ぐらい)で木でつないでいる、という形で。
仕切り、なんだろうね。
なんだろう、この不思議な世界。なんか、神社の鳥居が頭に浮かんだ。なんだか。

リチャード・ロング「イングランド・ジャパン・サークルズ」。
ランド・アートという、自然のものを平原や砂漠に配置するアートなのだそうで。
石が円状に並んでいる。
こういうの妙に好きなんだよね…。

デイヴィッド・ナッシュ「門」。
自然の木を使って作品を制作する作家とのことで、
こちらも解説のシートを頂いてきたのだが、台風で倒れた木を組み合わせているそうな。
台風で倒れた木、というのに意味があるんだろうなあ…。

剣持和夫「無題 1991」。
廃工場の写真なのかな。なんか個人的に好みだった。暗さとか。

アンソニー・カロ「シー・チェンジ」。
金属の板を緑色に塗ってて、組み合わせてある。
金属なので硬いはずなんだけど、色のせいなのか、不思議に硬さを感じない。柔らかい、という感じでもないんだけど。
なんだろう、折り紙みたいな感じで。


なんか、立体作品が妙に多いなあ…。
自分の感覚で分かりやすいのかもしれない。


なかなか来れない美術館なので、ミュージアムカフェは寄ってみる。


この美術館はレストランもカフェもあるんだけど、
カフェの方は「二階のサンドイッチ」というお店。
カフェだけど食べ物もあるのか、と思ったのもあってお昼は軽めにしたのだけど、夕方でサンドイッチがほぼ残っておらず、結局甘いものに。美味しかったけどね。
こちら、席の椅子もあれこれ種類があって、それも面白かった。

ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで@東京都現代美術館

www.mot-art-museum.jp

東京都現代美術館は初来訪。
水天宮前駅から歩いて10分程度。昼下がりの14時に歩くのは少し辛い…って、雨…?
晴雨兼用傘で助かった。
ちなみに写真撮った時も結構降っていた。降ってるように全く見えない青空がバックだけど(お天気雨だった)。

で。
morina0321-2.hatenablog.com
前回伺った展覧会に続く、椅子がメインビジュアルになっている展覧会。
現代美術が得意でない書き手、これを機に来訪しようかな、というのもあった。
ジャン・プルーヴェはフランスの建築家&デザイナー。
今回初めて知ったのだけど、フランスのナンシーという町は元々ガラス工芸が盛んで、アール・ヌーヴォーの時代にナンシー派という派閥ができて、そこにはエミール・ガレ(ナンシー生まれ)やドーム兄弟普仏戦争でナンシーに避難してきた)も属しているという。
そのエミール・ガレと親交があった彫刻家・ヴィクトール・プルーヴェ(こちらもナンシー派)の息子さんがジャン・プルーヴェ。なんかもう、最初からデザインありきな生まれなんだなあ…。
ジャン・プルーヴェはそこからガラスじゃなくて、金属工芸へ進んだのだけど。


最初の展示場所は1階。
最初の部屋は「イントロダクション」。ここだけ撮影禁止。
で、ここにはテーブルとか、什器(展示用の)とか、ファサード・パネル(建物のデザインの表面。日本だとファサード保存と言って、古い建物のデザインだけ残す方法がとられることがあるよね)とか、そういうものが展示されてる。
なんか…殺風景…というか無機質…?
前回がどちらかというと生活に寄りそう椅子デザインが多かったので、余計にそう思うかもしれない。


次の部屋、というか通路から撮影OK。
で、通路の下に。

なんか家がある…?


どきどきさせながら次の部屋、セクション「工芸から工業へ」。
そこに展示されていたのは、主に椅子とテーブルで組み合わせた、色々なシチュエーションのセット。
やっぱり殺風景で無機質…というより、これ、機能的って呼ぶものだ…。
こんな感じ。

派手な感じはないけれど、仕事をするには十分良さそうな感じ、というか。
ちょっと無印良品的な感じもする。機能と合理性を考えてるのだろう。
簡素なので、大量生産もしやすそうだなあ…。だから「工芸から工業へ」なのだろう。
あと、自転車とか移動式の脚立(特注らしいけど)もあったりして。


セクション「椅子」。
ここは椅子がずらりと。いずれも機能的で、機能を工夫しようとしているのが伺える。
「木製スツール」なんかそうなんだけど、これって第二次世界大戦中だったりするので、金属が不足している時代のものなんだよね…。
あと、簡単に組み立てられる「組立式ウッドチェア CB 22」とか。
面白いのは上記の写真のセットで映っていた「メトロポール」チェア。よく見ると後ろの2本の脚がごついんだけど、その理由が「プルーヴェは椅子に座る時、前脚を浮かせて後ろに傾けるのが好き」だかららしい。個人的な理由過ぎる…!
あと、タイピストチェアと呼ばれているものがちらほらあって、タイピスト全盛期なんだなあ…となったりもする。
これは余談だけれど、丁度「ムジカ・ピッコリーノ」でルロイ・アンダーソン「タイプライター」がテーマで放送された頃で、どうもその辺が頭をちらついていた。書き手、はるか昔に「タイプライター」弾いたこともあるし…。速くて大変でね…。


閑話休題
次のセクション「出版物」で資料の類(でもデザインはなかなか素敵なのも)、そのセクション「ナンシーの自邸」で写真と、ファザード・パネルが。
で、更に地下2階へ。
次のセクション「ジャン・プルーヴェの工場」でも、ドアにファザードが並ぶ。
この辺からちょっと毛色が変わってきている。


で、その次のセクション「アフリカに向けて」。
この時代は1950年~60年ぐらい、アフリカにフランスが多くの植民地を持ってて、それが丁度独立するかしないかのタイミングの頃。
エールフランス航空がアフリカとの航路を開いていて、現地の社員宿舎を依頼したのだそう。
ちなみに依頼したのはジャン・プルーヴェと、シャルロット・ペリアン(内装担当)。
morina0321-2.hatenablog.com
ここでちょっと前に拝見した展覧会が顔を出したり。
で、ジャン・プルーヴェはどんな感じのものを作成したかというと。

この写真、テーブルや椅子、照明もだけど、後ろの壁も作品。
「ブリーズ・ソレイユ(日除ルーヴァ―)」。日差しも遮って、更に段になっている部分の下部に穴が開いてるから、通気性も高いみたい。
アルミニウムで作成しているので、材料が軽く、運ぶのも楽だったそうで。
制作も簡単にできるようになってるしね。
例として解体したテーブルも展示してた。


セクション「組立・解体可能な建築と建築部材」。
セクションを眺めて一言「なんじゃ、ここ」だったとか。
武骨と言っても良い、アルミのファサードや、斜めの柱やら(写真を載せないのは、他の方がかなり映っているので。他の方が写らないようにするのが至難なぐらいの大型)。
建築部材をそのまま持ってくるの、凄いなあ…。簡素だから設置も難しくなかったのかもしれないけど。
素材以外にも、簡素な建築部材で作成している建物の模型が沢山あって、それはそれでなかなか興味深い。
戦時中とか戦後直後なので、プレハブ建築は必要だったんだろうな…と。


で、最後に。

最初に拝見した家、「F 8x8 BCC組立式住宅」。
いくら簡単だからって、原寸大組み立てて展示してるのって凄いね…。
中に家具もあって、決して暮らしにくい感じの家ではなかったなあ。


「椅子の展覧会」…じゃないなあ、これ。
どちらかというと合理的な機能美の展覧会。これはこれで良かったなあ。
建物の展示だと模型が主になるけど、実際の建築部材がこれだけ使われていると、とても興味深い。


ちょっとだけ続く。

フィン・ユールとデンマークの椅子@東京都美術館

https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_finnjuhl.html

こちらは予約制度なし。で、同時展覧会のチケットで少し安く入れる。
morina0321-2.hatenablog.com
それが目当てではなく、ちょっと気になってこんにちは。


フィン・ユールはデンマークの建築家&家具デザイナー。彼を軸に置いた、デンマークのデザインの展覧会。
写真も半分近く撮影OK。


ざっと展覧会の構成の話をすると。
第1章「デンマークの椅子」がデンマークでのデザインの流れ。
第2章「フィン・ユールの世界」でフィン・ユールの諸々の展示が拝見できる。
で、第3章「デンマーク・デザインを体験する」で、展示されていた椅子に座れる。

一般人には、難しい話はなくていいと思う。自分の好みの椅子とデザインを見つけろ展覧会。
(あ、デザイン専門の方は第1章の最初の説明からじっくり拝見して良いと思うよ)。

フィン・ユール自体は「彫刻のような椅子」と呼ばれているらしい。
個人的におっと思ったのは、アーム部分。不思議な角度がついていて、ここは本当に特徴的。手をかけるとどんな感じなんだろう、と思う。
あと、フィン・ユールは椅子だけじゃなくて、御自身の家の外装も内装もやってたりする。
椅子以外の家具も結構素敵だなあと思った。

第2章「フィン・ユールの世界」のセクション4「フィン・ユール邸」は、フィン・ユール自体が手掛けた椅子以外の家具(照明とかボウルとかもある)や、フィン・ユールが選んだらしい玩具や絵画(ハンス(ジャン)・アルプの抽象画とか)もあって、御本人のセンスも伺えて面白い。

ちなみにフィン・ユールの椅子で一番いいなあと思ったのは。

ポエトソファ。色使い可愛い。

で、第3章「デンマーク・デザインを体験する」なんだが、実は一番座って気に入ったのはこちら。

アルネ・ヤコブセン「ドロップ」。
デザインも好きなんだけど、これ、背中はしっかりホールドして、腕が凄く自由な感じがしてね。
書き手、手すりにあまり慣れてないのかもしれない。実はあまり椅子生活してないんだよねえ(え)

あと、第3章が特にそうなんだけど、椅子だけじゃなくて、照明やラグも合わせて素敵なものを展示している。
第3章は座っても楽しめるけど、椅子とテーブルと照明とラグのセット、みたいな形でも楽しめるよ。

あ、そうだ。今回の展示は織田コレクションというものが大半。
odacollection.jp
椅子研究家の織田憲嗣氏のコレクションだそうで。北海道の東川町の所有になっているらしい。
東川町は写真もやってるし、そういう町おこしお好きですねえ…。


これはこれでとても楽しい展覧会。


次へ行く前に、お昼。


東京都美術館「カフェアート」にて、おにぎりとアップルパイという謎の取り合わせ。
アップルパイはボストン美術館展の方のタイアップメニュー。書き手、アップルパイ好きなもので…。もう少し中の林檎が多い方が好みだけど。


続く。

ボストン美術館展 芸術×力@東京都美術館

https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_boston.html

この展覧会、ちょっと趣旨が変わっている。ボストン美術館の「権力者がに関わるコレクション」。
あまりない感じなので、とりあえず伺ってみた。
平日に前売りの電子チケットを購入して。まさかこれが後日役に立つとは…。


第1章「姿を見せる、力を示す」。
権力者が自分の力を誇示するための品々。
エジプトのレリーフだったり、装飾品だったり、肖像画だったり、刀だったり。
あ、ボストン美術館は東洋とか日本の作品も相当数保有していて、今回はその辺も来ている。
なので、清時代の官吏の衣装「龍袍」が展示されていたり。色の具合が結構好き。
で、実は最後の方に、ちょっと毛色の違う日本の作品が。
平治物語 三条殿夜討巻」と、吉村周圭「寛政内裏遷幸図屏風」。
この2点、所謂高貴な三条殿=後白河法皇とか、内裏にいる天皇は、御簾の後ろにいて描かれてないんだよね。日本は権力者が「表に出ない」「隠れてる」。なるほどねえ…。解説読まないと気付かないよ…。
あ、そうそう、「平治物語 三条殿夜討巻」は、書かれている文字が「読める」のでびっくりした。昔の文字の書き方だと崩されてて読めなかったりするんだけど、ここまで読みやすいのは珍しくないかなあ。絵の方も、群像なのに一人一人が生き生きと描かれていて、おおっとなる。


第2章「聖なる世界」。
権力者と宗教、という感じか。
西洋は宗教画。エル・グレコ「祈る聖ドミニクス」が気になる。聖ドミニクスの表情がなんかいいんだよね…。
日本は水墨画とか曼荼羅とか大日如来坐像とか経典とか。
玉畹梵芳「蘭石図」はとても繊細でいい感じだった。
で、ここで出てくるのか、二月堂焼経!お持ちだったんですなあ…。眼福。
罪福報応経(中尊寺経)も紺地で金泥・銀泥で書かれていて、更に見返しの絵も美しいという。


第3章「宮廷のくらし」。
宮廷の生活に関わる諸々。例えば、宮廷での生活を描いた絵画とか。
こちらが代表かな。ジャン=レオン・ジェローム「灰色の枢機卿」。
morina0321-2.hatenablog.com
ジャン=レオン・ジェロームというと先日拝見した「ピュグマリオンとガラテア」だけれど、こちらの絵画もぱっと目を引く。
「灰色の枢機卿」はフランス語で所謂「黒幕」を意味する言葉なのだそうで、こちらはその起源となった、フランソワ・ルクレール・デュ・トランブレー(ルイ13世の宰相・リシュリュー枢機卿の腹心)を描いた作品。
一見地味な灰色の衣を纏った人物に、豪華な赤い衣の宗教家や他の人が頭を下げている絵。ジャン=レオン・ジェロームはなかなか面白い絵を描かれますな…。
あとはセーヴル磁器製作所のお皿や花瓶とか。
morina0321-2.hatenablog.com
それから、とても目立つエメラルドとプラチナとダイヤモンドのブローチ。マージョリー・メリウェザー・ポストという女性実業家(食品会社関係なのね)の所有だったそうな。
ちなみに彼女の名前で検索すると、こちらが出てきたり。
ja.wikipedia.org
時事ネタ…(注:こちらの記事の記載日は8/11)


第4章「貢ぐ、与える」。
権力者の贈答品として作られた品々。
こちらでもセーヴル磁器製作所の皿や壺が展示されていたり、エリザベス1世が作らせた「水差しと水盤」があったり。
個人的にはアルブレヒト・デューラーの木版「マクシミリアン1世の凱旋車」の細かさで凄いなあ、と。


第5章「たしなむ、はぐくむ」。
権力者が芸術をコレクションとして育てたり(要はパトロン)、権力者自体が芸術を手習いしたり、というところ。
というか、何故かここにカナレット「サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂、サン・マルコ沖から望む」があったりして。コレクションの一環なのかなあ。個人的には眼福なんだけども。
でもって、「キタラ・バッテンテ」という17世紀のイタリアのギターが。これがもう、物凄い装飾で。象牙に鼈甲に真珠貝を嵌め込みまくっている。ひゃー。
あとはロスチャイルド家とか、イギリスの王妃とか、リンカーンの妻が所有していた宝飾品が出ていたり。
能面と厚板が出ていたり(能は権力者に保護された芸能だものね)。
狩野派が出ていたり。狩野探幽楊貴妃・牡丹に尾長鳥図」はかなり美しかったなあ…。
個人的には「三十六人家集 伊勢集(石山切)」の料紙が大変素敵で良かった。
あ、今回の目玉の1つの「吉備大臣入唐絵巻」はこちらに。これは後白河法皇の周囲で描かれたから、なのか。吉備大臣=吉備真備と、鬼=阿倍仲麻呂の亡霊のファンタジー大作(言い方)みたいで、話としても結構面白い。
吉備大臣と鬼が空飛んでく絵はパロディ絵になってグッズにもなってたけど、普通に本作自体が面白いの、なんだろうね。
「権力者自体が手習いしてた」例は、伊勢長島藩の藩主・増山雪斎(正賢)の「孔雀図」。とても丁寧で綺麗だったなあ。


あまり見ない切り口での展覧会で、それはそれで面白かった展覧会だった。


グッズショップでいくつかポストカードと、お茶を購入。


お茶がパロディ絵のパッケージなんだよね。
上記で記載した「吉備大臣入唐絵巻」(煎茶)と、アンソニー・ヴァン・ダイク「メアリー王女、チャールズ1世の娘」(玄米茶)。あ、「メアリー王女、チャールズ1世の娘」は第1章にあったのだけど、元の絵は凄く顔が大人びていて(6歳の少女を描いたらしいのだけど…)、でもドレスが凄い綺麗だったなあ。
どうでもいいけど、お茶…まあ、紅茶はなかったけど、もしかしてボストンティーパーティー(茶会事件)からの連想だったりします…?(あ)


続く。

東京国立博物館

実は先週、5日ほど総合文化展が無料入場できた日があった。
なので、その後だとすいてるかなと思って(え)

なお、こういう企画もあったらしいのだけど、スルーしてしまった。
www.tnm.jp
メンバーズパス持ってたら、もしかして安く拝見できたのかもしれないけど。


まあ、平常通りに総合文化展をだらだら拝見していく。


まずは本館2階から。


1室。
「日本美術のあけぼの」、「埴輪 短甲の武人」がなかなか凛々しい(埴輪顔に凛々しいとか言い出した時点で割と駄目かもしれない)。

3室。
「仏教の美術」で、説相箱の装飾を拝見したり、「地蔵菩薩立像」のなんともいえない表情と、結構凄い袈裟の彫りにおおっとなったり、掛け軸の「焔魔天像」がとてもすっきりした顔をしていたり(「閻魔」だと結構ごつい顔で描かれるのにね)、何故か一覧に載ってない「婦人像」が美人画っぽかったり。
「宮廷の美術」は伝・藤原為家の「狭衣物語歌合断簡(姫路切)」や「伊勢物語切」の紙がとても格好良い…。
「禅と水墨画」は伝・狩野元信の「水墨画」が好き。右幅の川の様子が特に。

4室「茶の美術」。
「南蛮独楽香合 銘 昔男」が気になった。丸い形で、同心円に色合いの違う赤い漆が塗られていて(「独楽塗」と言うそうで)。どうやらタイやインド辺りで作られて、貿易で日本に渡ってきたみたい。
あとは「安南染付輪花杯」とか。安南=ベトナムベトナムの焼き物の絵はなんか可愛いよねえ。
結構遠くからの品を気に入っていたけれど、龍泉窯の青磁鉢は、少し変わった色合いで、なんか良かった。

5室・6室「武士の装い」。
変わり兜が気になる。「白糸威一の谷形兜」…これ邪魔じゃないのか…
後は、以前拝見してそうな気がするけど「南蛮胴具足」の兎耳の兜とか。兎耳は縁起がいいみたいで、結構作例があるみたい。

8室。
「暮らしの調度」。武家の女性衣装は毎回楽しいのだが、今回は「腰巻 黒練緯地宝尽模様」と「提帯 萌黄地牡丹獅子模様」が展示されているだけでなく、着用例の写真まで出ていた。
いや、これは写真欲しいよ。こんな着用の仕方するの…!?ってなるもの…。周囲にひとがいたら当たりそうな邪魔なやつ(言い方)。
陶磁だと、姫路の東山(とうざん)焼の「染付魚形硯」が魚の形で可愛かったり、仁阿弥道八が指導して開いた讃窯(香川)での「染付魚文建水」はベトナムっぽくない?と思ったら、やはりそちら意識で絵付をしているっぽかったり。
更に同じ讃窯の「褐釉人面貼付文徳利」は、人間の顔が彫られているもので、これは西洋っぽい…?と思ったら、オランダから渡ってきた陶器を参考にしているみたい。なるほど。面白いことやりますなあ…。
「書画の展開」、今回の書が「絵も一緒に楽しめる」作品集。
池大雅「茄子糸瓜図賛」の那須がなんとも可愛い形をしていたり、慈雲飲光「金棒図自画賛」とか謎に金棒だけ描いてるし、小林一茶「一茶像自画賛「子どもらを云々」」、慈雲飲光「達磨図自画賛」、近衛信尹「渡唐天神像賛」…どれもこれも人型なのにゆるい!
これも書に入るのかは分からないけど、「二十三番狂歌合」も面白かった。江戸時代の所謂「物売り」を説明入れて描いてるんだよね。唐辛子売りとかもあったんだなあ…。
絵の方は、とりあえず英一蝶「見立業平涅槃図」で吹いた。涅槃なのが仏じゃなくて在原業平なんだけど、侍ってるの全員女性という。動物もいるけど、全部雌なのかなあ、やっぱり(え)。ちなみに迎えに来るのも女神様だったりする。露骨な…。
曽我蕭白が「牽牛花(朝顔)図」「葡萄栗鼠図」がまるで双幅みたいに展示されていた。蕭白は変わった絵も多いけれど、この2点はそこまで奇をてらってない。そして余白多めの絵がとても素敵…。
あとは岩佐又兵衛「布袋図」。書き手はあまり岩佐又兵衛が分からないのだけど、こちらは薄い墨だけど、なんとも愛嬌のある布袋様を描いてて大変良い…。

9室「能と歌舞伎」、今回は能でも歌舞伎でもなく、狂言
今回は狂言面が面白かった。面白い表情している「うそぶき」と、いい笑顔の「祖父」。

10室。
「江戸(衣装)」は白い衣装が多いなあ。綺麗。
「江戸(浮世絵)」、歌川広重の「六十余州名所圖會」のシリーズのうち、滝が主体のものがいくつか。この季節には良いですな…。


さて。



本館2階に続く階段、なんかいる…?

こちらでした。特別2室「親と子のギャラリー 日本美術のつくり方 Ⅴ」。
www.tnm.jp
漆工の「平目及梨子地見本」とか、見本でも綺麗だなあ、となったり。
あ、そうそう。

展示ケースにもいたりして。


本館1階へ。


14室は特集「創立150年記念特集 東博のガラスコレクション―明治期ガラス工芸の諸相」。
www.tnm.jp

尾張七宝の竹内忠兵衛の「ガラス七宝脚付杯」という七宝+ガラスのとても珍しくて綺麗なものとか(個人的に尾張七宝はあまり得意ではないのだけど、こちらは本当に渋い赤で綺麗)。
江戸の雛道具のガラス製品が滅茶苦茶可愛いとか。
品川硝子という明治初期にあった品川硝子製作所(会社は私営だったり公営だったりするみたい)の斑色ガラスが美しかったりとか。
薩摩切子もやはり美しいなとか。
紀州徳川家が収集しているガラス製品がとてもきらきらしていたり(お好きだったのかなあ)。
外国から輸入したイギリスのシンプルなガラス製品も、フィリップ・ジョセフ・ブロカールの割と落ち着いたデザインの彩色ガラスも美しい。
…なんて眼福な特集…。

16室。
アイヌ」で目を引いたのは、鮭皮製長靴と、火打用の道具を入れる巾着。巾着はチョウザメの皮製。北方の海産物から作っててへえ、となる。
琉球」の紅型衣装が「タナシ」。ちょっと丈の短い、夏用の衣装らしい。

18室「近代の美術」。
洋画は人物画かな。原撫松は個人的に好きなので良しとして、伊藤快彦「帽子をかむった男」が気になったり。題材として老人とか壮年の男性とか、ちょっと渋い辺りを気にしている。
工芸。今回は人間国宝の作品をずらり。
14代今泉今右衛門(雅登)…近代というか現代作家じゃないか…。「染付墨はじき梅花文鉢」は墨色が鈍く光る金属みたい。
三輪休雪は10代と11代。白釉を使ってそれぞれ異なる作品を。11代はオーソドックスに茶碗、10代はぽってりとして可愛い水指。
鈴木藏「志野茶碗」とか、伝統を踏襲してるものが出ていたりも。
高橋敬典「平丸釜」は形が可愛いんだけれど、小さく車輪の図柄が入っていて、それも素敵。
3代山田常山「梨皮紫泥茶注」は常滑焼なのかな、茶注の形がなんだかとても可愛い。
彫刻は後藤貞行「馬」と平塚田中「灰袋子」。
東京国立博物館の彫刻は、全方位撮れるものもあって、今回は「馬」なのだが。

こう撮ると本当に格好いい…。
日本画は、あまり得意でない画家なのだけど、荒木寛畝「貴妃読書・西施弾琴」。細面の美人画になるかな。女性自身も衣もとても気品があっていい感じ。
で、今回一番のびっくり案件。

…この絵、どなたが描いてるんですか?というか…日本画か…?
…下村観山!?????
morina0321-2.hatenablog.com
下村観山が欧州の絵を模写してたのは存じ上げてたけれど、ここで作品にもしてるの…!?
作品名は「椅子の聖母子・巌上の鵜」。
右側は観山がお好きな鵜だけれど、いつもと描き方が違うのでとても戸惑う。でも、素敵な絵。


平成館へ。


企画展示室はこちら。
www.tnm.jp
「創立150年記念特集 チベット仏教の美術―皇帝も愛した神秘の美―」。
ええと、普段は看板(東京国立博物館は看板というかタペストリーだけれど)の写真を載せるんだけど、今回撮ってるけど、載せない。載せられない。
父母仏を看板に載せると、流石にちょっと載せづらいんだよ(遠い目)下手するとセンシティブとか言われてしまう…。
というか、この看板、夏休みで割と年齢層が低い方々もいらっしゃる時期、いいんですかね…(逆に言うと、この看板で引き返す保護者様がいればいいのか…?)
ちなみに父母仏、今回3点ほど展示されていたりする。チベット仏教の話すると必須だからなあ…。
あ、ごく普通(?)の仏像もあるよ。「除蓋障菩薩坐像(八大菩薩のうち)」とか、「明月母坐像」とか、妙に綺麗。

チベット仏教特有なのは父母像以外にもある。
「ターラー」という女神が信仰されている。日本だと三十三観音の1つ、「多羅菩薩」。効能?によって色があるらしい。白とか緑とか。
そういえば、サラスヴァティの像も展示されていた。まあ、日本だと弁財天になるのであまり違和感はないけど。
仏頂尊勝母坐像」。仏頂尊勝母は如来の肉髻(頭頂部の盛り上がり)が神格化されたもので、諸仏を生み出す女神(陀羅尼を納めておくとか)。チベット仏教では割とポピュラーらしい。展示されてたものがとても美しかった。
「ガウ」というもの。日本語だと携帯厨子。首にかけるペンダントみたいにして携帯する。あちらだとお守りみたいなものみたい。
「サッチャ」(ツァツァ)という、粘土を型に嵌めて作った小型の仏像。大量生産して、土産とか巡礼に携帯するようなものらしい。割と気軽だな…。
後は、チベット文字で書かれている「般若経」とか、満州文字満州=清民族も仏教を信仰していて、チベット仏教と交流があったそうで)で書かれている「大乗因縁経」とか。
後は、チベット仏教にあまり関係ないものも。「ケサル王伝」という叙事詩があって、その像も展示されてた。

あと、河口慧海という日本の僧侶が、日本人で初めてチベットに入国した方で、この方が持ち帰ったチベットのものが展示されていた。
持ち帰った「菩薩立像」がとても美しかったのだけれど、あちらの像は妙な色気があるのだろうか…。
でもって「檀木釈迦如来立像」。これ、慧海がチベットから持ち帰った白檀に、高村光雲が釈迦如来を彫った、という。…そんなことやっちゃうんだ…。なんか…凄いな…。

いや、とても興味深い展示ではあった。
→追記。

www.youtube.com
東京国立博物館の公式Youtubeでオンラインギャラリートークがあったので、気になる方はこちらもどうぞ。父母仏の話は微妙にぼかしているようなr

考古展示室。
面白いコーナーが「古墳時代の鈴の響き」。恐らく祭祀用の、鈴に関連した品々が展示されていた。まんま鳴らす用途の鈴だったり、鏡の縁に鈴がついていたり。
後は柄の先端を蕨状にした「蕨手刀」とか。
あと、とても個人的な感じで。

「埴輪 太鼓を叩く男子」を撮ってた(あ)いや、楽器演奏してる埴輪は割と写真撮ってたりするのよね…。


法隆寺宝物館。
今回の染織は少なめだけど、袍の残決と、模造が。
残決はまあ…大分残ってなかったけど、ちゃんと模造作れるのも凄いよね…。


東洋館。いつもの通り上の階から。


10室。
「朝鮮の陶磁」、高麗の青磁象嵌がとても綺麗だった。青磁自体も綺麗だし、象嵌される薄い色も綺麗でね。
後、今回は結構日本の茶の湯で好きそうな茶碗がいくつか。雨漏茶碗とか、決して綺麗とは言い難い茶碗(雨漏りのように染みが広がっているものなので)なんだけど、こういうのを日本人は美として捉えるので面白いよね…。
「朝鮮の磨製石器と金属器」。ついつい「緑釉鳥」とか気になっちゃうんだよね。どうして書き手、こう、副葬品好きなんだ…(言い方)
あと、この日は考古展示室でもそうだったんだけど、意外と鏡を気にしていた。馬鐸も。馬鐸は形が好きなんだよね…。

5室。
「中国の染織」は刺繍特集。
いきなり経典が展示されていたりする。全て刺繍で作られている「刺繍経」。文字も刺繍なんだそうで…。言われなければ、印刷で作られてるようにも見えるよ…。
坎肩(チョッキみたいな上着)とか馬掛(乗馬用の女性の上着)とか、まあとにかく美しく刺繍されていた。これは眼福…。
「中国の陶磁」。あれ?これ、先日、板谷波山展で拝見した茶葉みたいな色してる、となったのが「茶葉末双耳瓢形瓶」。中国では茶葉末釉というものだそうで。
morina0321-2.hatenablog.com
後は非常に目立つ赤の「紅釉瓶」とか、天目茶碗がずらりと並んでいたりとか。

13室。
「アジアの染織」はインドネシアの染織。バティックもあるんだけど、細かい文様で個人的な好み過ぎる…。色合いも好みだし。
で、珍しく「インドの細密画」。今回は女性を描いたものが中心。
勿論現地の女性の絵が多いんだけど、「英国婦人の肖像」みたいな珍しいものとか、シチュエーションが謎すぎる「酒に酔って見つめ合う二人の女」とか(高貴なお嬢さんと従者の女性らしいんだけど)。

こちらは「タンブーラを弾く女」。つい楽器を弾く絵は気になっちゃう。


1日がかりでした。楽しかった!


1日がかりなので、昼御飯はキッチンカー、おやつは気が付いたら土日祝だけ営業始めてた「カフェ ゆりの木」。

東北へのまなざし1930-1945@東京ステーションギャラリー


このポスターのゆるさが好き。この帽子メガネ、ブルーノ・タウトかなあ…。

1930年以降の東北の話。
1930年頃…というと…ああ…となったので、こんにちは。


「1 ブルーノ・タウトの東北「探検」」。
ブルーノ・タウトというとこちらの展覧会かな。
morina0321-2.hatenablog.com
それこそ、この時の展覧会で出ていたものもあったんじゃないかな。他にも著作も沢山展示。
で、今回のメインは「秋田の旅」。秋田の版画家・勝平得之に案内されていて、勝平得之の作品もタウトから世界に紹介されることになったりもする。
ちなみにこの時は上野伊三郎と一緒…先日奥様の展覧会やってましたなあ。
で、その時に発見した東北の道具がずらっと飾られていた。箱ぞりとか(これに勝平得之が入ってて「ひろってください」とか言いたくなるような感じに(え))。
個人的に気になるのは、ゲラ。ミノゲラとかササゲラとかあるんだけど、雨避けに被る被り物(蓑でもいい気がする)。デザインが素敵なんだよねえ…。
あと、祝儀棒(ぼんでんこ、と振ってあったけど横手での言い方っぽいな)がとてもカラフルで印象に残った。


「2 柳宗悦の東北美学」。
はい民藝でございます。
morina0321-2.hatenablog.com
東北との関わりは先日の展覧会でもありましたね。
というわけで、その時に拝見したこぎん刺しも背中当(ばんどり)も伊達ゲラもありましたとも。
まあ、柳宗悦の収集物だし(所蔵もほぼ日本民藝館)、デザインが個人的好みなのは仕方ない。


「3 郷土玩具の王国」。
東北の郷土玩具です。
…いきなりこけしが並んでて、ちょっと怖い(あ)
三春人形もあるよ。これも前述の展覧会に出てたね。


「4 「雪調」ユートピア」。
東北の太平洋戦争直前から戦中ぐらい。
この辺りは前述の展覧会でも出ていたけれど、東北はこの時期経済的に苦しくて(飢饉も重なっていたそうで…)、柳宗悦が東北に農業以外の殖産ができるように(要は工芸で)働きかけてた頃。
ここは調査資料等の文献とか、後は今和次郎が農村家屋の改善を頑張っていて、その辺の建築資料とかが多い。これは…展示形式だとなかなかわかりづらい…。
その中でも、東北で作られてる工芸品(椅子)が出ていたり、この頃に商工省の装飾美術顧問で招かれたシャルロット・ペリアンがデザインした寝台とか、その敷物とかも出ていた。
…へえ、シャルロット・ペリアンって、ジャン・プルーヴェと協働したりしてたんだね。関連展覧会、開催中ですな…(ぼそ)


「5 今和次郎・今純三の東北考現学」。
今和次郎が続く。となると、建築資料が続く…。難しい…。
考現学」は考古学の対になるような造語。今目の前にあるものから色々考えていく学問なんだね。
で、今純三は和次郎の弟で、銅版画家。
兄の関係もあって、東北の当時の風景のエッチングを残しておられた。


「6 吉井忠の山村報告記」。
吉井忠は画家。東北の人々や風景を沢山描いていらっしゃる。
印象に残ったのは「鋤踏み」。女性が農作業をしている姿の力強さが。


個人的には4とか5とかは本でじっくり読んでいきたい気もするなあ、となった。
この日伺った展覧会で、実は一番ひとが入っていたのがこの展覧会なんだけど、結構渋好みだし勉強する感じの展覧会な気がするなあ。


で、入場チケット割引を使いました。はい、単に飲みたいだけです。


割引より飲んだくれてるのではという話はr

生誕150年 板谷波山─時空を超えた新たなる陶芸の世界@出光美術館

久々の出光美術館
morina0321-2.hatenablog.com
なんと5年振り。そりゃあ久々過ぎて行き方も全然覚えてないわけだ…。
出光美術館の展示が全体的に渋いというのもあるけれど、ここ2年はずっと予定してた展覧会を中止にしてたんだね…。

板谷波山は色々な展覧会で数点の作品を拝見する、ということが多かったけれど、個人の特別展は初めて。
今年は生誕150年で(山元春挙と同じ生年なんだね)展覧会がいくつか予定されていて、東京だとこちらが一番最初かな。

出光美術館は写真NG。
スタッフの方に写真撮影OKかを尋ねていた方がいらしたが、気持ち凄く分かる…。

「第1章 板谷波山の陶芸」。
ハイライト、と言っていいかな。代表作が数点。
波山で有名なのは(書き手も良く拝見する)「葆光彩磁」。マット(艶消し)の不透明釉を使用していて、とても柔らかい色の陶器になる。ただ、それだけでなくて、青磁もあるし、辰砂磁も作成している。
波山の辰砂は割と文様をシンプルにして、辰砂の深い赤を全面に出している感じ。辰砂は個人的にも好きな陶器なので、おおっとなる。
更に氷華磁というものも。青磁っぽいけどもう少し白い、青みを帯びた、という感じの色。
「氷華磁」や「葆光彩磁」は、波山自身がそう命名しているみたい。
個人的には、「彩磁桜草文水差」を、自分の子供たち(波山は5男2女と子宝に恵まれてる)に「年甲斐もなく(作成当時、81歳)若いデザイン」って言われているのが微笑ましい。


「第2章 陶芸家としての始まり-波山誕生」。
明治時代末期から大正時代初期の作品。
今回展示されていた年表を見て驚いたのだけど、波山は東京美術学校(現在の東京藝大)出身なんだけど、実は彫刻科出身で、石川県工業学校(現在の石川県立工業高校、書き手は別趣味の方で結構お馴染みの校名だったりする)に彫刻の先生として招聘されていて。
石川県工業学校の彫刻科が廃止されて陶磁科に転籍したのが陶芸家としてのスタート、という。
ちなみに彫刻科だけれど、その前は絵を描いていて、河久保正名の画塾で習っていたとか。
え、ちょっと待って。
morina0321-2.hatenablog.com
ここで繋がるの、河久保正名…。
閑話休題。というわけで、石川県工業学校時代から陶芸家として作品を作り始めて、初期作品が第2章で展示されている。
…の、だが…。…これが初期?なんか…面白い陶器作りまくってる…!
元々、アール・ヌーヴォーの時期だったそうで、それが影響しているようで、貝をモティーフにしている「鉄釉帆立貝水指」や「蝶貝名刺皿」とか、野菜をモティーフにした「彩磁蕪小花瓶」「彩磁玉葱形花瓶」とか。野菜モティーフの陶器は色合いが可愛い…欲しい…(え)
あと、アール・ヌーヴォーだから植物モティーフが多めで、笹とかヤツデとか竹とか、とても面白い図案にしてた。
他にも、まるで金属の地に、更に金属のような斑文がとても格好いい「渦紋結晶釉花瓶」。
こちらはマンガン結晶釉を使用していて。実は石川県工業学校の同僚・北村彌一郎が作成した釉薬なのだとか。ちなみに、石川県工業学校の同僚には初代諏訪蘇山とかもいらっしゃるとか。


「特集1 大型作品への挑戦」。
まんま大型の作品がどどどん。
個人的にあまり大型の作品が好みでないのだけれども。


「第3章 波山陶芸の完成-時空を超えた独自の表現」。
大正時代中期から太平洋戦争前の作品。
ちなみに、この頃から轆轤師(木地師)・現田市松に陶器の成形は実施してもらっていて(完璧な器形を追求するためとのこと)、デザインは波山が実施している。
「葆光彩磁」が沢山。
文様としては、紅で描かれたオナガドリとか、丸く咲いた椿や、「葡萄文」(葡萄となってるけれど、果物の葡萄よりはもう少し詰まった感じで描かれてたりする)とか、桃(桃と直接書かず、長寿の象徴という意味で「延壽」となっていたり)とか。
それから、赤銅色と書かれてたけど個人的にはチョコレート色に見える「紫金磁」、不透明な緑、青磁なのに不透明なもの、深い緑で連想できる通りの「茶葉釉」。
第1章にも出てきた「氷華釉」に、わざと朱色の貫入(ひび割れ)が入っている「蚤殻磁」。「青磁竹節花瓶」には貫入を二重で入れていたりとか。
辰砂に白濁釉をかけてなんともいえない紫がかった地になった「窯変磁鶴首花瓶」、辰砂に落箔をしているようになっていて、まるで星が輝いているような「窯変磁花瓶」、第2章で出てきたマンガン結晶釉を使って金属のような「曜変磁鶴首花瓶」、更に金属っぽい、銀器のような「黒耀磁鶴首花瓶」。
…こんなにバリエーション豊かに作陶されてたのか…。


途中にコラム「<しあわせ>を願って」。
「延壽」の文様を多用している作品。
このうち「淡黄磁扶桑延壽文花瓶」には、犬が描かれている。この頃から犬を飼っておられたそうで。シンプルに描かれていて、とても可愛い。
ちなみに「淡黄磁」は白磁に薄く黄色がかった釉薬を使用しているもの。


もう1つコラム「波山と佐三」。
佐三は波山のパトロンで、出光興産の創始者出光佐三のこと(出光美術館は佐三のコレクションが元)。
ここで面白いのは、波山が自分の作品を作成する途中でNGを出した作品を、佐三が「勿体ないから強奪してきた」作品があること。それらの作品を「命乞い」と呼んでる。なんて言葉…。
「天目茶碗 銘 命乞い」(本当に銘でつけてるし!)は、びっくりするような縁付近の朱色から青へのグラデーションをしている、凄い一品。いや、これは命乞いしますよ…。


「特集2 波山の青磁-古典から学ぶ」。
ここは中国古典の青磁を模して作成している作品が多く、所謂古典的な作品…なんだけど。
なんというか、妙につるんとした作品が気になってしまう。
青磁柑子口花瓶」は、つるんとした上に、なんかむにょんって柔らかそう。不思議な感覚。


「特集3 波山の茶陶」。
波山が作成した茶道具。陶器はわかるけど、茶杓まで作ってたり。
金属っぽい上に艶消しされてる「銅耀磁唐花文花瓶」とか、禾目天目みたいな茶碗(銘:天龍)とか、桃香合とか柿香合とか可愛い欲しいってなるものとか。
「淡紅磁四方香爐」は落ち着いた紫で、辰砂がベースらしい。辰砂はこんな色も出るのか…。


「特集4 素描集-自然体の波山とその眼差し」。
その名の通りの図案がずらりと。アイディア無限大な方だったのかもしれないなあ…。
同時に「コラム 波山陶芸の源流-故郷への恩返し」が。
波山は故郷の長寿の方に、杖を送ってたんだよね。その杖についていた白磁鳩杖頭が飾られていた。
後は、帝室技芸員だったので宮内庁から毎年頂いていた羽二重で帯を作って、絵を入れて、それを身近な人に送っていたりとか。
出光佐三に記念に作ってほしいと依頼したら、10年後にようやく出来て送られた観音聖像とか(多分ちゃんとした作品として送りたかったんだろうなあ、とは)。
あと、中国の鎮墓獣(石獅子もこれの一種だよね)をモティーフに作成している「瑞獣」とか。


「第4章 深化する挑戦-とどまらない制作意欲」。
太平洋戦争後に作成された作品。
…そうだよなあ、波山は山元春挙と生年は同じだけど、長寿(91歳まで存命でいらした)だったので、戦後も作品作成しているんだよな…。
「彩磁桔梗文水差」のデザインが面白い。蓮の花の形をしている器に、その隙間から桔梗が見えるという。
あと、紫陽花モティーフがここにきて出てくる。色もとても素敵。
最後は絶作「椿文茶碗」。亡くなった年に作成されてるんだよね。
実は波山より先に現田市松が交通事故で亡くなっていて、それもあって(更に息子さんの一人も同年亡くなっている…)御病気になって、結局、現田市松と同年に亡くなるという…。なんとも切ない。


最後はしんみりしたけれど、いやあ…面白かった。
これだけ沢山工夫されてる、これだけ挑戦されてる陶芸家だったのだなあ…と。
気が付いたら、結構長いこと鑑賞していた。拝見しに来て良かったなあ。


続く。