時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

生誕150年 板谷波山─時空を超えた新たなる陶芸の世界@出光美術館

久々の出光美術館
morina0321-2.hatenablog.com
なんと5年振り。そりゃあ久々過ぎて行き方も全然覚えてないわけだ…。
出光美術館の展示が全体的に渋いというのもあるけれど、ここ2年はずっと予定してた展覧会を中止にしてたんだね…。

板谷波山は色々な展覧会で数点の作品を拝見する、ということが多かったけれど、個人の特別展は初めて。
今年は生誕150年で(山元春挙と同じ生年なんだね)展覧会がいくつか予定されていて、東京だとこちらが一番最初かな。

出光美術館は写真NG。
スタッフの方に写真撮影OKかを尋ねていた方がいらしたが、気持ち凄く分かる…。

「第1章 板谷波山の陶芸」。
ハイライト、と言っていいかな。代表作が数点。
波山で有名なのは(書き手も良く拝見する)「葆光彩磁」。マット(艶消し)の不透明釉を使用していて、とても柔らかい色の陶器になる。ただ、それだけでなくて、青磁もあるし、辰砂磁も作成している。
波山の辰砂は割と文様をシンプルにして、辰砂の深い赤を全面に出している感じ。辰砂は個人的にも好きな陶器なので、おおっとなる。
更に氷華磁というものも。青磁っぽいけどもう少し白い、青みを帯びた、という感じの色。
「氷華磁」や「葆光彩磁」は、波山自身がそう命名しているみたい。
個人的には、「彩磁桜草文水差」を、自分の子供たち(波山は5男2女と子宝に恵まれてる)に「年甲斐もなく(作成当時、81歳)若いデザイン」って言われているのが微笑ましい。


「第2章 陶芸家としての始まり-波山誕生」。
明治時代末期から大正時代初期の作品。
今回展示されていた年表を見て驚いたのだけど、波山は東京美術学校(現在の東京藝大)出身なんだけど、実は彫刻科出身で、石川県工業学校(現在の石川県立工業高校、書き手は別趣味の方で結構お馴染みの校名だったりする)に彫刻の先生として招聘されていて。
石川県工業学校の彫刻科が廃止されて陶磁科に転籍したのが陶芸家としてのスタート、という。
ちなみに彫刻科だけれど、その前は絵を描いていて、河久保正名の画塾で習っていたとか。
え、ちょっと待って。
morina0321-2.hatenablog.com
ここで繋がるの、河久保正名…。
閑話休題。というわけで、石川県工業学校時代から陶芸家として作品を作り始めて、初期作品が第2章で展示されている。
…の、だが…。…これが初期?なんか…面白い陶器作りまくってる…!
元々、アール・ヌーヴォーの時期だったそうで、それが影響しているようで、貝をモティーフにしている「鉄釉帆立貝水指」や「蝶貝名刺皿」とか、野菜をモティーフにした「彩磁蕪小花瓶」「彩磁玉葱形花瓶」とか。野菜モティーフの陶器は色合いが可愛い…欲しい…(え)
あと、アール・ヌーヴォーだから植物モティーフが多めで、笹とかヤツデとか竹とか、とても面白い図案にしてた。
他にも、まるで金属の地に、更に金属のような斑文がとても格好いい「渦紋結晶釉花瓶」。
こちらはマンガン結晶釉を使用していて。実は石川県工業学校の同僚・北村彌一郎が作成した釉薬なのだとか。ちなみに、石川県工業学校の同僚には初代諏訪蘇山とかもいらっしゃるとか。


「特集1 大型作品への挑戦」。
まんま大型の作品がどどどん。
個人的にあまり大型の作品が好みでないのだけれども。


「第3章 波山陶芸の完成-時空を超えた独自の表現」。
大正時代中期から太平洋戦争前の作品。
ちなみに、この頃から轆轤師(木地師)・現田市松に陶器の成形は実施してもらっていて(完璧な器形を追求するためとのこと)、デザインは波山が実施している。
「葆光彩磁」が沢山。
文様としては、紅で描かれたオナガドリとか、丸く咲いた椿や、「葡萄文」(葡萄となってるけれど、果物の葡萄よりはもう少し詰まった感じで描かれてたりする)とか、桃(桃と直接書かず、長寿の象徴という意味で「延壽」となっていたり)とか。
それから、赤銅色と書かれてたけど個人的にはチョコレート色に見える「紫金磁」、不透明な緑、青磁なのに不透明なもの、深い緑で連想できる通りの「茶葉釉」。
第1章にも出てきた「氷華釉」に、わざと朱色の貫入(ひび割れ)が入っている「蚤殻磁」。「青磁竹節花瓶」には貫入を二重で入れていたりとか。
辰砂に白濁釉をかけてなんともいえない紫がかった地になった「窯変磁鶴首花瓶」、辰砂に落箔をしているようになっていて、まるで星が輝いているような「窯変磁花瓶」、第2章で出てきたマンガン結晶釉を使って金属のような「曜変磁鶴首花瓶」、更に金属っぽい、銀器のような「黒耀磁鶴首花瓶」。
…こんなにバリエーション豊かに作陶されてたのか…。


途中にコラム「<しあわせ>を願って」。
「延壽」の文様を多用している作品。
このうち「淡黄磁扶桑延壽文花瓶」には、犬が描かれている。この頃から犬を飼っておられたそうで。シンプルに描かれていて、とても可愛い。
ちなみに「淡黄磁」は白磁に薄く黄色がかった釉薬を使用しているもの。


もう1つコラム「波山と佐三」。
佐三は波山のパトロンで、出光興産の創始者出光佐三のこと(出光美術館は佐三のコレクションが元)。
ここで面白いのは、波山が自分の作品を作成する途中でNGを出した作品を、佐三が「勿体ないから強奪してきた」作品があること。それらの作品を「命乞い」と呼んでる。なんて言葉…。
「天目茶碗 銘 命乞い」(本当に銘でつけてるし!)は、びっくりするような縁付近の朱色から青へのグラデーションをしている、凄い一品。いや、これは命乞いしますよ…。


「特集2 波山の青磁-古典から学ぶ」。
ここは中国古典の青磁を模して作成している作品が多く、所謂古典的な作品…なんだけど。
なんというか、妙につるんとした作品が気になってしまう。
青磁柑子口花瓶」は、つるんとした上に、なんかむにょんって柔らかそう。不思議な感覚。


「特集3 波山の茶陶」。
波山が作成した茶道具。陶器はわかるけど、茶杓まで作ってたり。
金属っぽい上に艶消しされてる「銅耀磁唐花文花瓶」とか、禾目天目みたいな茶碗(銘:天龍)とか、桃香合とか柿香合とか可愛い欲しいってなるものとか。
「淡紅磁四方香爐」は落ち着いた紫で、辰砂がベースらしい。辰砂はこんな色も出るのか…。


「特集4 素描集-自然体の波山とその眼差し」。
その名の通りの図案がずらりと。アイディア無限大な方だったのかもしれないなあ…。
同時に「コラム 波山陶芸の源流-故郷への恩返し」が。
波山は故郷の長寿の方に、杖を送ってたんだよね。その杖についていた白磁鳩杖頭が飾られていた。
後は、帝室技芸員だったので宮内庁から毎年頂いていた羽二重で帯を作って、絵を入れて、それを身近な人に送っていたりとか。
出光佐三に記念に作ってほしいと依頼したら、10年後にようやく出来て送られた観音聖像とか(多分ちゃんとした作品として送りたかったんだろうなあ、とは)。
あと、中国の鎮墓獣(石獅子もこれの一種だよね)をモティーフに作成している「瑞獣」とか。


「第4章 深化する挑戦-とどまらない制作意欲」。
太平洋戦争後に作成された作品。
…そうだよなあ、波山は山元春挙と生年は同じだけど、長寿(91歳まで存命でいらした)だったので、戦後も作品作成しているんだよな…。
「彩磁桔梗文水差」のデザインが面白い。蓮の花の形をしている器に、その隙間から桔梗が見えるという。
あと、紫陽花モティーフがここにきて出てくる。色もとても素敵。
最後は絶作「椿文茶碗」。亡くなった年に作成されてるんだよね。
実は波山より先に現田市松が交通事故で亡くなっていて、それもあって(更に息子さんの一人も同年亡くなっている…)御病気になって、結局、現田市松と同年に亡くなるという…。なんとも切ない。


最後はしんみりしたけれど、いやあ…面白かった。
これだけ沢山工夫されてる、これだけ挑戦されてる陶芸家だったのだなあ…と。
気が付いたら、結構長いこと鑑賞していた。拝見しに来て良かったなあ。


続く。