時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

民族衣装 -異文化へのまなざしと探求、受容-@文化学園服飾博物館


こちらを知ったのはNHK日曜美術館・アートシーンだった。アートシーンは時々、全然知らなかった展覧会を教えてくれる。
文化学園服飾博物館の場所も存じ上げなかった。新宿の甲州街道沿い。甲州街道沿いを歩くというと、初台の東京オペラシティアートギャラリーまで歩いたことがあるけれど、それよりは全然近い。10分もあればたどり着く。
新宿駅自体は流石に人は多いけれど(それでもいつもよりは少ないような気がしたなあ)、駅を少し離れると、人通りもまばら。新宿の休日は、東口じゃなければそんなにしんどくない。


入場料は500円。お安め。会場がそこまで大きくないとはいえ。


今回の展示は2階から始まる。
…その前に、このところどころに置かれた椅子、見たことある…。
morina0321-2.hatenablog.com
ここで拝見した「ネルソン・マシュマロ・ソファ」だ!普通に座って休めるように置かれている。まさかここで出会うとは…。


「1.未来の世界への好奇心」(今回リストがなくて走り書きのメモによるので、誤ってたらすみません)。
18世紀ぐらいまでかな。異国の衣服の情報が少しずつ入って来る段階。衣服の絵が描かれた本だったり、後は実際輸入した布だったり。
中国や日本の非対称な花や草の模様が、ビザール様式として受け入れられてた。ビザール=「奇妙な、風変わりな」という意味。
あと、孔雀がヨーロッパに伝わるのって結構遅かったんだね。元々東南アジアや南アジアの鳥だから(正確にはアフリカにもいるけど、アフリカのコンゴクジャクってそんなに鮮やかじゃない)。だから、衣服と一緒に孔雀モティーフが持ち込まれてる感じで展示されてた。…書き手、そこで反応するのどうかと思う(ぼそ)
あと、江戸時代の異国の衣服が描かれた書物が数点。


「2.より正確な情報への欲求」。
19世紀とか20世紀初頭ぐらいかな。
この頃になると、各地の衣服の構造を書き残したりしている。
勿論デザインはどんどん流入してきて、デザインを取り入れてドレス作ったりしている。エジプトの衣服モティーフで作られたマリアノ・フォルチュニィのドレスがとても素敵。
…あれ?この名前存じ上げてる…
morina0321-2.hatenablog.com
そうだ、三菱一号館美術館!(この時の表記はマリアノ・フォルチュニ)
で、一風変わったコレクションが「陸軍被服廠」の資料。陸軍被服廠って何?と思ったら、大日本帝国陸軍の軍服を製造していた組織。それが各地(中国・韓国・台湾)の民族衣装を集めていて、なんだろうね、と。
もしかしたら衣装を分析して、その土地の気候に合う軍服を制作しようとしていたのかもしれないけど。…まあ、その辺りで軍事行動をしようとしてたということなんだけど(あ)韓国と台湾は併合していたしね。
それはともかく、台湾の民族衣装、可愛いよね。この辺は民藝でも結構注目されてて集められてたけど。
後は、ジャワ更紗。ろうけつ染めに触れられてて、ああ、バティックね、とか、染色工程の見本はやっぱりワヤン人形の形で作られるんだな、とか、書き手の知識は東京国立博物館東洋館13室で作られている(あ)


「3.民族衣装のさらなる探求」。
こちらは民族衣装を研究されていた方の資料。

まずは、民族衣装は巻垂型・貫頭型・腰布型・前開型・体形型に分類されるのだけど、その分類を作成した小川安朗。
分類ごとに展示されていて、学術としてきっちりしているなあ、と思いつつ。
巻垂型の代表として出ていたチュニジアのフウタ(フータ、フタ、とも表記有)。頭から巻くような、ベールみたいな使い方をされていたんだけど、その下に着ているブラウスも含めて非常に可愛い。
貫頭型の代表で出ていたグアテマラのウィピール(ウィピル、ウィーピルとも表記有)。メキシコでも着るみたいなので中米の衣服イメージなのかな、非常に鮮やか。ええとですね、2021年5月のミュージックステーションで刄田さんが着てた上着みたいな色彩なんですよ(そこ?)というか、アレはそちらの方のイメージ衣装なんだろうけど。
腰布型はジャワ島のカイン・パンジャン(バティックなので書き手が喜ぶ)と、フィジーのマシ(フィジーだとマシだけど、各ポリネシアで色々呼び名があるらしい、樹皮布の腰布)。
前開型は日本の着物がそうだけど、ブータンのゴが出ていた。男性の民族衣装なんだけど、チェック柄で可愛かった。
体形型、まあ今のスーツとかそうなんだけど、代表ではネパールの男性用民族衣装、ダラウ(上)とスルワール(下のズボン、女性用もそう呼ぶ)が出ていた。

次は、夫がWHOの医師だったこともあって一緒に世界を回り、特に遊牧民の染織について興味を持って収集されていた松島きよえ(清江)。
ちなみに、収集品の一部は東京国立博物館に寄贈されていて、書き手が大好きな東洋館13室の遊牧民の染織は、彼女のコレクション(下記参照)。
www.tnm.jp
というわけで、各地の遊牧民の部族の衣装が主なのだろうけど、まあとにかく可愛い。ツボに入りまくる。

その次はデザイナーであり民族衣装も研究していた田中千代。こちらは著書のみの展示。

で、最後に、パレスチナ地域の民族衣装の研究家・ウィダード・カワール。
パレスチナのソブというドレスに、非常に美しい刺繍がされている。
1900年代のソブの刺繍と、1900年後半のソブが展示されていたけれど、明らかに古い方が手が込んでいて。古い方が手での刺繍、新しい方が機械での刺繍。手の方が細かいんだ…。
更に非常に刺繍が入って手の込んでいる、1900年代前半のソブ・マラクと、1900年代後半の簡素なソブ。後者は化学繊維の地に、ミシンで赤一色の糸で刺繍がされている、簡素なもの。この簡素さは技術の機械化、ではなく、物資不足からのものだそうで…。パレスチナだものね…。
こういうところからも、色々考えてしまう。


最後の章は1階の展示。「4.民族衣装の模倣・受容」。
著名デザイナーやブランドが民族衣装のモティーフを取り入れてる解説。
チュニジアのジェッパ(麻製の上衣)やコート(バーヌースorブルヌス)を元にしたデザインや、モロッコの可愛いケープがアール・ヌーヴォーのケープになったり。
…というか、チュニジアとかモロッコって、フランスの植民地にされたから、デザイン伝わりやすかったのかもしれない…。
あとは清朝の官服の柄をモティーフに、イヴ・サンローランがイヴニングドレスにしたりとか。微妙にドレスの形もチャイナドレスっぽくて、そこに龍の図柄を入れて、という。…というか、清朝の官服って蝦夷錦なのでは…。
個人的に気になるのはマリのドゴン族の藍の絞り染め。絣なんだよ。泥染もあって、こちらも素敵。この辺りは高田賢三がデザインに使用していたり。
あと、凄いのはウズベキスタン。なんか、反物のカラー自体が凄い。独特。ハラトって上着もあるんだけど、そちらは絣なんだけど、物凄い派手で。いやあ…色々な世界があるなあ…と。
ちなみに最後にちょこっとだけ、ヨーロッパのデザインが民族衣装に入っていった例も、写真資料であった。


美しくて、面白かった。
衣服はやはり生活に根差すので、当時の世情とか、背景とか、反映されるなあ…というのが、興味深い。


続く。