時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

所蔵作品展 パッション20@東京国立近代美術館工芸館

www.momat.go.jp
東京国立近代美術館工芸館、東京でのラスト展覧会。
所謂コレクション展なので、入館料は250円。なのに入り口でしっかりしたガイドブックが貰える。

今回のパッション「20」の「20」は、20のキーワード、という感じか。
章立て的には5章、という感じかね。

最初の章は「日本人と「自然」」。東京国立近代美術館工芸館の6室使用(今回、珍しく6室から回る順路)。
パッションは2つ。
パッション1は「作ってみせる」。ガイドブックだと初代宮川香山の作品が当たるのかな。初代宮川香山というと(東京国立博物館でもたまに出てるが)横浜美術館のコレクションが思い浮かぶ。
morina0321-2.hatenablog.com
morina0321-2.hatenablog.com
いわゆる「高浮彫」が有名。今回も「鳩桜花図高浮彫花瓶」はそうなのだが、もう1つ、「色入菖蒲図花瓶」が。こちらの方が後期に作成したものになるらしい。とても品があって綺麗。
パッション2は「囲みとって賞でる(めでる)」。このタイトル自体は、松本ヒデオ「囲み取って賞でる IX」という…「作品」(としか言いようがなくてジャンルが分けられない…)からきているようで、「あるがままの風景に境界線を引くことで私的な空間を創る」という意味があるそうで(参考は御本人のサイトから、同作品の写真も)。
ocean-art.jp
「日本人と「自然」」というテーマには近い言葉なんだろうな、と思うのだが。ガイドブックで取り上げられているのは、実は着物。いまいちピンと来ていない。前期は喜多川俵二「顕紋紗二陪織物夏袿りんどう花菱丸文」が出ていたのだが、有職文様なので、個人的にはいまいち。後期は志村ふくみが出るので、これだけでも後期見に来たいなあ…。
パッションではこの2つになるけど、その他にも金工・漆工・布・人形等。
小さな作品群が1つのケースに飾られていたのだが、加納夏雄「蘭図香合」大木秀春「蘭帯留音丸耕堂「彫漆薺文茶入」赤塚自得「花文と水文香合」がとても素敵。前者2つは金工、後者2つは漆工。後者は漆の色がちょっと変わっていて、漆工っぽくないのがポイント。
人形では堀柳女「黄昏(その二)」がなんだか素敵。女性の群像みたいな感じか。

次の章は「オン・ステージ」。5室。国際的な舞台で展示された作品。
3作品しかないけど巨大。パッションも2つ。
パッション3「垂れ下がって気を吐く」。小名木陽一「赤い手ぶくろ」。織物なんだが、デカいし手が赤で爪も別の色で織られてて派手で、とても目立つ。
パッション4「ジャパン・プライド」。鈴木長吉「十二の鷹」、これは壮観。鈴木長吉の鷹の金工は有名だけれど(東京国立博物館でもよく飾られてる)、これだけ揃えて、しかもそれぞれポーズも鷹の種類も違っていて、日本的な衝立(でいいのかな)に留まっていて。細部の細工もよく見ると凄い(こそっとInstagramに写真を載せてたり)。
www.instagram.com
挙げられているのは2作品だったけれど、もう1作品、福本繁樹「四曲屏風 巴」もとても綺麗な色とデザインの屏風だった。

次の章は「回転時代」。4室。なんだろう。モダンとか古典とか民藝とか入ってくる時代の話かな。
パッションは5つ。多いよ。
パッション5「モダンv古典」。杉田禾堂「用途を指示せぬ美の創案」が名前の通りにどう使いようもな、けどデザインが素敵なものだったり、香取正彦「鋳銅花器」が古典に即したものだったり。
パッション6「キーワードは「生活」」。民藝に繋がりそうな話だなあ。取り上げられたのは藤井達吉「電気スタンド」。これは個人的にも好み。
パッション7「古陶磁に夢中」。挙げられていたのは石黒宗麿。「天目釉水指」とか「千点文茶碗」とかモダンデザイン入ってて素敵で好みだったんだけど、写真撮影NGのものと並んでいて写真が撮れない…!*1
パッション8「線の戦い」。これは富本憲吉の言葉なのだそうで。「白磁八角蓋付壺」。柔らかい線で品の良い白磁だった。
パッション9「私は旅人」。これは鎌倉芳太郎の言葉。沖縄出身でないながらも紅型研究を始めて、制作まで始めた際の言葉なのだそうで。他地方の民藝に惹かれた作品、ということかな。「印金朧型着物 そう*2」こちらは紅型というには地味な地なんだけど、柄が素敵でね。芹沢銈介「縮緬地型絵染着物 紙漉村」の方がよっぽど紅型らしい感じはする。芹沢銈介は雑誌「工藝」の装填も綺麗だし、先の部屋でも出てくるよ。ガイドの後半及び写真は河井寛次郎「呉洲双手陶彫」だったけれど、こちらはどちらかというと象徴的な作なので、個人的には「鳴壺」が好き。
ここはそれ以外にも沢山素敵な作品がある。
恐らくパッション5関連の、板谷波山「葆光彩磁牡丹文様花瓶」「霙青磁牡丹彫文花瓶」、六角紫水「漆画丸盆」、海野清(名前聞いてあれ、と思ったけど、海野勝珉の息子さんだ)「青金楓紋瓶」、香取秀真「雷文鋳銅花瓶」、北原千鹿「羊置物」。最後のもの以外は古典に倣ってるけどデザインがモダン、最後のは杉田禾堂と同じように用途不明だけど羊が可愛い(あ)
パッション6関連の磯矢阿伎良「バイオリン・ケース」、西村敏彦「銅槌起七宝唐草文巻葉入」、日本農民美術研究所「朱漆パフ入れ」、内藤春治「壁面花挿」、広川松五郎「臈染文武紋壁掛」、木村雨山「一越縮緬地花鳥文訪問着」。いずれも生活で使う…使うか?と思うほど高級そうだけど、どれもこれもデザインが素敵。
で、恐らくパッション9関連…というか「民藝」関連の、濱田庄司「刷毛目汲出セット」、バーナード・リーチ「鉄釉抜絵巡礼図皿」。
ちなみに随所に椅子が用意されているのだが、この部屋はバタフライスツールだった。工芸館にもあったのか…。
morina0321-2.hatenablog.com

次の部屋が、実はいつも関連映像を流している部屋なのだが。
公式のイベント情報に載ってるのだが、「さわってプリーズ」という企画。「NUNO」とのコラボレーション。
www.nuno.com
映像では「NUNO」の製造過程が流れ、部屋には「NUNO」の布製品で作られたカーテンとクッションが。確かここ、いつもは窓を閉めていて暗い部屋だったように思う。カーテン越しの光でとても明るい部屋に。
ちなみに「NUNO」の製品は1階の受付兼グッズ売り場(あれをミュージアムショップと言っていいのだろうか…)で売っていたりする。というか、製造過程の映像で作られていた製品が売られてたぞ…。自分で身に着けるにはファッショナブルすぎるので、手は出さないけど。

次の章は「伝統⇔前衛」。3室と2室と和室全部使って。現代に繋がっていく感じかな。
まずは3室から。3室のパッションは3つ。
パッション10「「日常」」。芹沢銈介再び。紅型の染め紙を使用して(その技法が「型絵染」と呼ぶようになったそうで)カレンダーやうちわやマッチ箱を。これは可愛い…!ガイドの後半は野口光彦の御所人形。御所人形が日常のものかは微妙なところではあるけれど。そして個人的には、ちょっと御所人形の顔が怖い…。
パッション11「人間国宝」。分かりやすいな。赤地友哉「曲輪造彩紅盛器」。これは本当に赤と黒のコンストラクトがとても綺麗な一品。目を惹く。
パッション12「オブジェ焼き」。要は形容しがたい陶器。熊倉順吉の作品解説なんだけど、個人的にはどうしたらいいかわからない作品集。
というわけでここで気に入ったものの中心は、人間国宝作品。
加守田章二「壷」、松田権六「蒔絵螺鈿有職文筥」「蒔絵鷺文飾箱」、荒川豊蔵「志野筍茶碗 蕾雪」「黄瀬戸茶碗」、濱田庄司「白釉黒掛方壺」、黒田辰秋「螺鈿白蝶縞中次」、長野垤志「白銅木兎花瓶」。濱田庄司は結構ツボに入りやすいなあ。黒田辰秋は…のちほど。
長野垤志「白銅木兎花瓶」は、こちら。


可愛い…。

2室+和室。
パッションは4つ。
パッション13「日本趣味再考」。恐らくこのタイトルの元になった中村錦平「日本趣味解題/閉ジタ石」。…前衛的過ぎてどうしたらいいやら(遠い目)
パッション14「生地も一色」。森口華弘の友禅の着物。「訪問着 薫秋」、渋くてとてもいい感じ。後期にも別の着物が出るそうなので、ちょっと気にはなっている。
パッション15「「工芸的造形」への道」。実は2室にあるのは、制作過程の映像。作品自体は外にある橋本真之「果樹園―果実の中の木もれ陽、木もれ陽の中の果実」。工芸館は旧近衛師団司令部庁舎なので、とても美しい建物なのだが、この作品がその建物の前にどどん。なんか、異次元。ちなみに以前は裏庭に展示していたそうで。
パッション16「素材との距離」。田嶋悦子「Cornucopia 08-Y2」。陶芸家が陶器と同じようにガラスも使って作った作品、なのかな。前衛なのでいまいち解釈が難しい…。
面白いのは、三輪壽雪「鬼萩割高台茶碗」と十三代三輪休雪「花冠」。同じ土と同じ釉薬だけど、「鬼萩割高台茶碗」は茶碗(でもかなり豪胆な)、「花冠」はオブジェ。「花冠」は割れも入ってるのがなんだか凄い。実は三輪休雪は萩窯元・三輪窯の当主が代々名乗る名前だそうで、三輪壽雪は十一代(壽雪は隠居後の号)、十三代のお父様にあたる。
なお、十二代は十三代のお兄様で、現在は三輪龍気生の号。実は三輪龍気生の名前は前の展覧会で見ていた。
morina0321-2.hatenablog.com
「愛のために」という陶器でハイヒール作品作ってたので、とても覚えている。代々、結構発想が自由なのかもしれない。

最後の章は「工芸ラディカル」。1室。
パッションは4つ。
パッション17「瞬間、フラッシュが焚かれたみたいだった」。北村武資の「羅」。光を通す薄物。綺麗…。
パッション18「オブジェも器も関係ない」。高橋禎彦のガラス作品。実用できそうなのもあり、さっぱり用途が分からないものもあり。
パッション19「人形は、人形である」。四谷シモン「解剖学の少年」。…人体模型…?インパクトは強いよね。
パッション20「当事者は誰か」。留守玲の金工作品。素材は鉄なのだそうだが、なんだかちょっと気になった。特に「冬芽」。不思議な滑らかな面。鉄…よりも肉っぽい肌、というか。不思議。
この部屋でもう一つ素敵な一画は、築城則子の縞の帯。築城則子は小倉織を復元した方。縞がとてもカラフルで素敵だ…。しかし、6点あってそのうい5点が個人蔵=写真撮影NG。1本だけ撮影も難しいし。おおお。

大満足の展覧会。本当にこんな安い入場料でいいのか…。

さて、最初に記載した通り、東京でのラスト展覧会。
だから、展覧会の最後の扉にも、頂いたガイドブックにも、「さらば。」の文字が。
もう少し沢山観に来れば良かったのかなあ、とも。


というわけで最後の写真は「いつもここにある」「(静かにだけど)座ってもいい」ベンチ。前述した黒田辰秋はこのベンチ「欅拭漆彫花文長椅子」の作者でもある。
ベンチも建物の設えも含めて、本当にここは、この書き手の写真でさえも綺麗に撮れますな。

まあ、金沢に移転した後も、旅行先の楽しみに。

そもそも、今回の後期展示来るんじゃないの?という話はr

続く。

*1:東京国立近代美術館工芸館の写真撮影NGは、東京国立近代美術館工芸館の所蔵でなくて個人蔵のものにかかるみたい

*2:王篇に倉。漢字が出ない