時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

木島櫻谷 ― 山水夢中@泉屋博古館東京

sen-oku.or.jp

お待ちしておりました。本当にお待ち申し上げておりました。
お待ち申し上げたので、前売りチケットすら購入していたぐらい(まあ、お陰で少し安かったのだけど)。

木島櫻谷展。
昨年秋に泉屋博古館(京都の)で開催されていた展覧会の巡回。
これだけなら待つだけで良かったのだが。


昨年11月の展覧会の時期は櫻谷祭だった(櫻谷文庫の展覧会も勿論開催していた)。
南陽院は元々非公開のお寺で、もう公開することないんじゃないか、と言われていて。
でも、当時は全く遠征することができず、泣く泣く諦めたことを思い出す。ああ。

本来はもっと早くに伺う予定だった、のだが…まさかの流行病に罹患、一週間動きがとれず。
で、実はこの日も朝から仕事で、仕事が早く終わったので、結構無理やり駆けつけた15時だった。

前後期制。
写真は一部OK。

「第1章 写生帖よ!-海山川を描き尽す」。
泉屋博古館東京のホールに、絵ではなく、写生帖がどどどんと。
このセクションのみ写真OK。
写生帖はなかなかのボリュームで置いてあった。
ここに「題写生帖自警」という文章があるのだが。

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写生帖に呼びかけるというヤバイ人でした(あ)まあ…そこまで熱心だった画家ということで…。

こちらは写生帖ではなく、学生時代の図画課題で描いた「桂川写生」。当時15歳。…15歳の絵…だと…。そりゃあヤバイ人にもなる…。
写生帖のスケッチは素敵なものが多かったけれど、特に好きだったのはこちら。

櫻谷は動物画の名手でもあるけれど、馬が可愛い…。
あと、地味に嬉しかったのが、ここに経歴記載と、墓所の写真があったんだよね。櫻谷の墓所等持院で、個人的にも等持院は好きでよく行ってるけれど、等持院墓所公開してないから…。推しの墓所に通うファンも大分アレではあるがな…。

第3展示室。
「第2章 光と風の水墨-写生から山水画へ」。
第2章から第4章は描いている時代順。
第2章は若い頃、大きな屏風絵が多い。まず雄大さに圧倒される…のだが。
ちょっと待て。今…障子がある…!?うわああああ、南陽院本堂障壁画ー!?マジで!?泉屋博古館東京、障壁画をわざわざ運んでくれたようで…。わー。わー…(言葉が出ない)
勿論一部ではある。泉屋博古館東京は決して大きくない展示室だし。でも精一杯展示してくれて…感謝の言葉しか出ないよ…ありがとうございます…。
霧の立ち込める渓谷と、小さな家が立ち並ぶ漁村の風景の2つ。じっくりと。
一方、展示室を取り巻くように展示されている屏風の数々。
淡く、でも美しい山肌の色の左隻と、裾野の平原が描かれている右隻の「富士図屏風」。色が美しい。で、櫻谷はちょっと西洋的な遠近法を取り入れているのだけれど、これは浅井忠の影響があるらしい。…またよりによって浅井忠…?そりゃあ美しかろう…。
ちなみに櫻谷の直接の師匠は今尾景年。
「渡頭の夕暮れ」は、左隻の母子が右隻の小舟を操る老人に声をかけている図。


櫻谷の人物は凄く表情がチャーミングなんだよねえ。好きだなあ。
「細雨・落葉」。左隻に猿、右隻に大きな鹿2匹と小鹿。
はっとして見返る猿も可愛ければ、この小鹿よ…見返り具合とお尻…!
「万壑烟霧」(ばんがくえんむ)。霧に囲まれた山々の屏風の風情が良い。
そして屏風の後には軸装がいくつか。
「月夜の兎」。
もふもふパラダイス…(あ)兎の表情がまた可愛いんだよ…。
「帰農図」は暗くなっている中を帰る、恐らくは農民3名のシルエット。影のつけ方がとにかく格好いい。日本画っぽくない影のつけ方。足元に犬が一匹いるんだけど、これもまあ…シルエットでの動きが可愛い…。

第2展示室。
「第3章 色彩の天地-深化する写生」。
書き手がどうしてもこの日までに来たかった理由がここに。


この展覧会は前後期制で、6/24までが前期だったのだが、唯一6/18までの公開だった絵がこちら、「寒月」。京都市美術館所蔵なので、どこかで拝見できるかも、ではあったが、いつ拝見できるか分からないからね…。
いやあ…拝見して良かった…。雪の積もり方の描写が凄い。竹の根元の雪の感じが。黒々とした竹も格好良い、狼の表情もとても野性味があって良い、狼の雪の上の足跡も良い、一番右下の小川の流れの澄んだ感じも…。
これは頑張って来て良かった…。
そして隣に「駅路之春」。お久し振りです。
morina0321-2.hatenablog.com
これは福田美術館でガチで写真撮りまくりましたからねえ…。でも眼福で拝見。
で、第1展示室に続き(第2展示室は小さいので屏風作品2つしか置けなかった)、屏風1つと軸装等。
「天高く山粧う」は金地にピンク色の花が咲いた山。幻の春の山、という風情で。
でもって「養拙帖」という1冊が。こちらは本に貼られている金地の扇型(元は扇なんだろうか)のものに、ごつごつとした山肌の山が。不思議に迫力がある。
軸装だと、霧が立ち込めて湿度の高い「水郷」と、深い秋の山に、小さく猿の小さな群れが描かれている「幽渓秋色」が気になる。後者は中沢弘光旧蔵品だそうで。おっと。

第1展示室の後半は「第4章 胸中の山水を求めて」。
晩年は軸装の山水画が多い。
富嶽図」は富士山も綺麗だけれど、ふもとで山を眺めながら休憩している馬子もいい感じ。
「飛瀑」は水を余白で表現している。そしてそこを燕が一匹通り過ぎるのが格好いい。
「仙客採芝図」はこの頃には珍しく大きく描く人…人というか、仙人とその童子。集めているのは霊芝。童子が可愛いんだよねえ。
でもって最後の絵、「峡中の秋」。秋色をした山中に霧がかかる、山水画の集大成のような。これを最後に隠棲(亡くなったのはその5年後、電車事故とはなあ…)。

第4展示室で「エピローグ 写生にはじまり、写生におわる」。
多分、年代が確定できなかったものを展示しているのかな。
「月瀬春色図」という、奈良の月ヶ瀬(梅で有名)の絵とスケッチが展示。絵は色の濃淡が素敵。
軸装の「春山行路」の道行く旅人、「暮秋」の一人歩く人の抒情的な感じ。
そしてとても可愛かったのは、近所の方に旅先で描いて送っていたという、「絵葉書帖」。その土地その土地のスケッチ風で、そしてところどころ可愛らしい絵で。これをグッズにしてくれてもいいんですよ?というのは正直思ったりも。
送られてきた方が残しててくれたのもありがたい。


眼福だった。ありがとうございました。
HARIO Cafeでコーヒー頂く時間もぎりぎりあったので、余韻に浸りつつ。
前後期制なので後期も伺いますよ…!


あ、そうそう、グッズの1つにこちらが。


河道屋「蕎麦ほうる」。蕎麦ぼうろ。櫻谷がお好きだったお菓子だそうな。
購入して持ち帰ったのだが、これが素朴な味で、何の気なしにさくさく食べてしまえる、美味で(体重的に)若干危険なお菓子。
京都駅の新幹線改札内土産店でも購入できる老舗定番お菓子だそうなので、お好きな方は是非。