時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた@国立西洋美術館


展覧会の前にカフェ・すいれん。
パスタは展覧会タイアップ。バレンシアソースなのかな。トマトを使ってたけど、大分あっさり味だった(もっと酸味があるかと)。さらっと美味しく。
そして冷製ポタージュが本当に美味しい…。


本題。

アクスタもあるのは珍しいだろうか。
www.nmwa.go.jp
こちら、実は先に長崎県美術館で開催している。
長崎県美術館、実はスペイン美術のコレクションお持ちなんだよね(須磨弥吉郎という外交官のコレクション(須磨コレクション)が縁あって長崎県美術館所蔵になったそうで)。
で、長崎県美術館国立西洋美術館でタッグを組んで、国内のスペイン関連の作品を集めて紹介、という展覧会。
写真OKなものも結構ある。

で、実は最初の解説から驚いていた。
スペイン、他の(というかフランス、かなあ)ヨーロッパからすると、19世紀ぐらいまで「遠い国」だということ。
ピレネー山脈も一因ではあるようで。「ピレネーの向こうはアフリカ」という認識。
海経由の交流もなかったのかねえ。まあ、海挟んで戦争してたりもしてたしなあ…。
というわけで、スペインの美術が美術の中心であるフランスに伝わったのは、ナポレオンの侵略とその後のスペイン独立戦争が落ち着いたぐらい、の19世紀。なんか、そういう認識がなかったよ…。
ちなみにスペインからフランスに伝わる際、やはり持ち運びに適していた、ということで、版画が先に伝わったのだそうな。それもあって、この展覧会は版画展示が多い。

導入部に展示されていたのはギュスターヴ・ドレ「シエスタ、スペインの思い出」。
ギュスターヴ・ドレはフランスの画家だけど、テーマがスペインということで。19世紀は旅行が流行した時期だけど、丁度スペインにも旅行で訪れる人も増えたんだろうねえ。
国立西洋美術館に常設で出ていることもある、他のヨーロッパとはどことなく違う感じでエキゾチック。
スペインは立地的にイスラム文化の影響も受けてるしね。その分岐点もピレネー

「1.黄金世紀への照射:ドン・キホーテとベラスケス」。
「1-1.ドン・キホーテ」。
スペインといえば、ということでドン・キホーテ。絵画よりも早くスペインの文化として伝わってるんだよな。
地元の画家(とはいえ19世紀後半から20世紀ぐらいの)アンヘルリスカーノのが結構好きだなあ。
あと、オノレ・ドーミエ。「ドン・キホーテサンチョ・パンサ」は、なんか凄くそぎ落としてデザインのようになっている、痩身の紳士と丸い男性のシルエット。格好いい。
で、フランシスコ・デ・ゴヤの「カプリーチョス」43番「理性の眠りは怪物を生む」がここに。この版画自体は好きだけど、ドン・キホーテが眠っている間に妄想的な夢を見てああなった、という感じに近い題材ではあるんだろうね。
で、後年の作品としては、やはりスペインの画家としては絶大に有名であろう、サルヴァドール・ダリドン・キホーテ関連の作品。「風車への攻撃」、滅茶苦茶格好いいデザインになってる。

「1-2.ベラスケス」。
スペインの画家で一番年代を遡って一番有名なのが、ベラスケス。
とはいえ、このセクションで展示されているのは、ベラスケスそのものの絵画ではない。ベラスケスは寡作な作家で、国内の美術館がかなりの数を所有しているそうなので。
morina0321-2.hatenablog.com
この時「名前出ている割にベラスケス少ないなあ」と思ったけど、7点来るだけでも奇跡な話だったらしい。
じゃあこのセクションは何が出ているかというと、フランシスコ・デ・ゴヤエドゥアール・マネの、ベラスケスの海外の模写。…模写している方の名前が豪華である…。
ゴヤはまあ、同じスペインの画家なので、先達の絵を模写するのは分かる。
マネは実は、ベラスケスを「画家の中の画家」と評して、それでフランスにベラスケスの名前が知られるようになったっぽいんだよね。
他の画家の模写も、(後年の作だから想像での?)ベラスケスの肖像画も出ていた。


「2.スペインの「発見」」。
「2-1.旅行者としてのスペイン」。
前述の通り、スペインに旅行者として来訪した画家等の絵。当時はグランドツアーやピクチャレスクも流行だったものね。
面白いのが、ノエル=マリー=ペマル・ルルブール。この方、写真家なんだけど、当時の写真(ダゲレオタイプ銀板写真)は1枚しかプリントできない仕組みだったので、写真を元に版画にして、版画を印刷して出版したという。
こういうのもあるんだねえ…。

「2-2.人物タイプ」。
セクションのタイトル見て何?ってなったんだけど、スペインの人物の「典型」的な意味。「マホ」と「マハ」が代表的なもの。前者がマドリードの庶民階級の粋な男性、後者が女性。ゴヤの「着衣のマハ」「裸のマハ」の「マハ」の意味はこういうことだったんだね(今更)
で、このセクションは更に進んで、ジプシーも出てくる。
…ええと、このセクション、まず民族衣装が大変好みなのだけれど(あ)
ゴヤ「暗い背景のマハ」、マネも4点ほど、でもってギュスターヴ・クールベ「もの思うジプシー女」(初めて拝見したよ、国立西洋美術館所蔵なのに)、ロートレックもあるよ、という豪華さ。
更にホアキン・ソローリャ「水飲み壺」。こちら、国立西洋美術館の新所蔵・初公開作品。
ホアキン・ソローリャはスペインの国民的画家なのだそうだけど、色が明るくて本当にいい感じの作品。

「2-3.ゴヤの影響:ドラクロワ、マネ」。
とりあえずゴヤ「ロス・カプリーチョス」がずらっと並んでいて楽しい。この作品集は個人的にも好きなので。
で、「ロス・カプリーチョス」が好きなのは書き手だけでなく、好きで模写をしているのがウジェーヌ・ドラクロワ。またビッグネーム…。「ゲーテファウスト」の連作 空を飛ぶメフィストフェレス」は確かに「ロス・カプリーチョス」を想起させる。
一方、ゴヤのもう1つのシリーズ「戦争の惨禍」。
「ロス・カプリーチョス」も風刺かなり入ってるんだけど、「戦争の惨禍」はより身近な戦争の暗い側面を書くシリーズ。
これに影響を受けているのがエドゥアール・マネ。マネ、スペイン好きすぎるでしょ…。血生臭い絵が複数。それだけじゃなく、ゴヤの人物画に影響を受けているっぽいものもいくつか。
「ベルド・モリゾの肖像」もここに入るのか…。
そこからベルド・モリゾ「黒いドレスの女性(観劇の前)」を展示する、国立西洋美術館の力技を感じる(この絵の展示、お好きですよね…。いや書き手も好きだけども)


「3.闘牛、生と死の祭典」。
スペインの重要な文化の1つ、闘牛を中心に。
で、やっぱりこういうのはスペインの画家は題材にしたいようで。
ゴヤもかなり色々描いている。「闘牛技」のシリーズはかなり描写が細かい。
パブロ・ピカソの作品もあった。ゴヤと同じシリーズタイトル「闘牛技」はアクアティントで作られていて、これが個人的にかなり好み。ゴヤと違って単純化されて描かれているけれど、それが逆に良い。
ピカソと明記されていないと、ピカソの作品とは思えない作品かも。


「4.19世紀カタルーニャにおける革新」。
19世紀後半から末のスペインの画家にスポットを当てている。
「4-1.フォルトゥーニ」。
このセクションはマリアーノ・フォルトゥーニにスポットを当てている。19世紀後半が活動時期になるスペインの画家。
…このタッチは…結構好みだなあ…。題材もオリエンタリズムの影響が多くて、格好良い。
36歳でマラリアで夭折しているのだそうで、とても勿体ない…。

「4-2.バルセロナからパリへ:世紀末の光と影」。
ここのトップに出てくる画家がラモン・カザス。展覧会の宣伝ポスターになっているのはラモン・カザス「「アニス・デル・モノ」のポスター」。「アニス・デル・モノ」=サルのアニゼットという商品名。アニゼットはアニス酒(アニスという香草を漬けて作るリキュール)。ラモン・カザスはイラストレーター的なお仕事もしていたみたい。
もう1つ、「ペラ・ルメウと4匹の猫」という作品も出ているのだが、これは自分が共同経営をしていた「四匹の猫」(アルス・クアトラ・ガッツ)というカフェの宣伝用。「四匹の猫」は美術情報発信の場でもあったところだそうで(パリにあった文芸キャバレーのバルセロナ版)、ピカソも出入りするところだったみたい。重要だな…。
あとは劇作家でもあるアドリア・グアルのリトグラフの明るい作品や、ジュアキム・スニェル(検索したら国立西洋美術館でも「ジョアキム」表記)の「ジャン・リクテュス「貧者の独白」のための連作」というとても暗い世紀末的な作品も(ジャン・リクテュス「貧者の独白」は詩集らしく、作品自体が多分世紀末的と思われる)。
で、ピカソの初期の頃の頃の作品がずらっと。書き手はこの頃の絵、結構好きなんだよね。


「5.ゴヤを超えて:スペイン20世紀美術の水脈を探る」。
スペインの20世紀美術。
「5-1.エスパーニャ・ネグラ」。
直訳すると「黒いスペイン」。「暗鬱で不穏、不吉なスペインの姿を言い表すための語句」だそうで。スペインは植民地時代は台頭したんだけど、それで却って近代化が遅れて、非近代的な「黒きスペイン」を逆に評価する、みたいな話らしい。
先に「植民地時代」の画家が出てくる。スペイン領だったナポリに移住したジュゼペ・デ・リベーラ(ジュゼペはイタリア語読みで、スペイン語だとホセらしい)。「グロテスクな小さな頭部」はとても格好いい男性の頭部の絵で、何がグロテスクなのかはちょっと分からない。
で、またまた出てくるゴヤゴヤは基本的に「黒い」ものね…。
で、「黒きスペイン」の作家としては、イグナシオ・スロアガ、リカルド・バローハ、ホセ・グティエレス・ソラーナ辺りの、ちょっと画面暗いけど、民衆を描いている絵として結構興味深い感じだった。
スコットランドの写真家・ジェームズ・クレイグ・アナンの当時の写真も。

「5-2.叫びと抵抗:20世紀スペインにおける政治と美術」。
スペインの20世紀の政治…はまあ、確かに…ね…。
というわけで、パブロ・ピカソフランコの夢と嘘」とかあったりするわけで。ピカソフランコ政権に真っ向から歯向かってスペインに帰らなかったひとだしな…。
この辺りは(著作権的な理由だと思われるが)写真NGだったのだけど、ジュアン・ミロとかも出ていた。


「6.日本とスペイン:20世紀スペイン版画の受容」。
このセクションは写真NG。著作権的にもそうだろうね。
そして書き手的にも、もう現代美術になるのでちょっとストライクになりづらい。
現代美術お好きなら好きかも。


個人的な好みとしては、とにかくゴヤが沢山ある、マネもかなり出ている、若い頃の(個人的に好みな頃の)ピカソもある、ホアキン・ソローリャやフォルトゥーニみたいな知らなかった画家も知れる、で、なかなか良い展覧会であった。


この日はもう少し続く。