時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷@国立西洋美術館

www.nmwa.go.jp

morina0321-2.hatenablog.com
まさかの同地方特集展覧会、都内で同時期開催。
ただ、地元の画家の絵よりも、「憧憬の地」「異郷」、要は来訪者が主になる。こちらは御自身の所蔵と、国内のあちこちの美術館から貸与して頂いている。
写真はOKなものもあるよ。
三期ぐらいあるけどだいたい前後期制っぽい感じで、ちょっと入替がある。

「1.見出されたブルターニュ:異郷への旅」。
「1-1.ブルターニュ・イメージの生成と流布」。
こちらは、交通網が発達してブルターニュの情報が入るようになった、というお話。…要は19世紀の観光ガイドっぽい(え)これはこれで面白いよ。
なお、このセクションは全て写真OK。
観光ガイドっぽいセクションと言いながら、いきなり最初にウィリアム・ターナー「ナント」とか出してくる。ひゃあ。ナント歴史博物館所蔵らしい。外国から借りてきたの…?
で、ブルターニュを紹介する本の挿絵(リトグラフエッチング)がずらっと並ぶのだけど…え、これ、どれも良いよ…?風景やそこに暮らす人物等の絵。勿論、紹介の絵だからある程度美しくないと、はあるのだろうけど。
この辺りは国立西洋美術館のも少しあるけど、町田市立国際版画美術館の所蔵が大半。素敵なものを所蔵してるんだなあ…。
そして唐突のアルフォンス・ミュシャ。ひええええ。「岸壁のエリカの花」「砂丘のあざみ」、いずれもブルターニュ女性の服装だ!なるほど。
ミュシャデザインのルフェーヴル・ユティル社(元々ナントのメーカーだったんだね)のビスケット缶も展示されてたり。
これ写真OKなんだよ…ありがたい…。
里見宗次「クレープ・ダンテル「ガボット」のためのポスター」も格好いい。お菓子の広告にしては格好良すぎる気もするけれど。里見宗次は第二次大戦前・戦後に主にフランスで活躍したグラフィック・デザイナーなんだね。そんな凄い人もいたんだなあ…。「クレープ・ダンテル」はブルターニュ地方のお菓子とのこと。
他のポスターも牧歌的で素敵なのもあった。
資料として、地図なんかもあったけど(本当に観光ガイドだなあ)、この辺りの地方語のブルトン語の古謡集なんかもあった。

思わず撮った楽譜(19世紀なのでもう最近と変わらないね)。


「1-2.旅行者のまなざし:印象派世代がとらえた風景」。
前のセクションで大分満足したんだけど、本題はここから。
ブルターニュを見出した先駆けとしての印象派、というか、まずそれ以前のウジェーヌ・ブーダンどどんと3点。ポーラ美術館から「ダウラスの海岸と船」「トリスタン島の眺望、朝」、愛媛県美術館から「ブレスト、停泊地」。ああもう素晴らしい。
ちなみにこのセクションから、写真OKな作品は限られるのだけど、それが分かってないお客様がうっかり撮影しているのを沢山拝見するなど(ちゃんとスタッフさんに注意されてたけど、すり抜けた人もいると思う。結構混んでたし)。
その中でもクロード・モネは写真OK、オルセー美術館所蔵の「嵐のベリール」、そして今回展覧会ポスターにもなっていた、茨城県近代美術館所蔵の「ポール=ドモワの洞窟」。後者はとても美しい、印象派っぽい複雑な海の色。
あとはポール・シニャック3点にオディロン・ルドン2点。
ポール・シニャックひろしま美術館所蔵「ポルトリュー、グールヴロ」が明るくて優しい感じで凄く良い。国立西洋美術館所蔵の「グロワ」は水彩、「ロクマロ」はクレヨンで下絵を描いてて、それぞれ素敵。
で、オディロン・ルドン。ルドンといえば幻想的な絵が多いけれど、びっくりするほどまともな風景画。ただ、このセクションの中では一番荒涼・寂寥とした風景として描いているかも。そこが良い。岐阜県美術館所蔵(岐阜県美術館はルドンの絵をかなり所蔵しているそうで)「薔薇色の岩」「風景」、どちらも好きな絵。



「2.風土にはぐくまれる感性:ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」。
国立西洋美術館はポン=タヴェン表記なのね(ゴーギャンもゴーガン表記だしね)。ポン=タヴァンと同一。
というわけでポン=タヴェン派どーんと。ゴーガンにエミール・ベルナールにポール・セリュジェ多数。
ただその…個人的にはぴんとこなかった。
ゴーガン「ボア・ダムールの水車小屋の水浴」「海のドラマ、ブルターニュ」辺りは結構好き。
あと、別のブルターニュ展では響かなかったアンリ・モレ「ロケルタの風景」が気になった。ポーラ美術館所蔵。軍事風景(アンリ・モレも軍人だったそうで)なんだけど、とても画面が明るくて。



「3.土地に根を下ろす:ブルターニュを見つめ続けた画家たち」。
ああ、そうね、ポン=タヴェン派は一時的だったものね(ゴーガンがタヒチ行っちゃったし)。
「3-1.アンリ・リヴィエールと和訳されたブルターニュ」。
おや?別のブルターニュ展ではなかった視点だ。
アンリ・リヴィエールは木版画技術をお持ちで、丁度フランスでジャポニズムが流行ってた頃に、浮世絵のような木版画を制作したのだそうで。だから「和訳された」なんだね。
連作「ブルターニュ風景」「美しきブルターニュ地方」等を作成していて、今回の展覧会でも数点出ていた。
なんというか、全体的に浮世絵というよりは、新版画みたいな印象を受ける。

「3-2.モーリス・ドニと浜辺のアルカディア」。
別のブルターニュ展でも触れた通り、モーリス・ドニブルターニュに興味があった画家。というわけでモーリス・ドニのみのセクションが作られた。
個人的な好みは「海を背にした母子(ル・プールデュの親子)」と「後向きの裸婦」かな。

「3-3.「バンド・ノワール」と近代ブルターニュの諸相」。
別のブルターニュ展でおおっとなった「バンド・ノワール」。
シャルル・コッテがこのセクションでどーんと。
ブルターニュの入江」「月光を浴びる舟」「雷雨を避ける漁師たち」「海の哀しみ」は国立西洋美術館蔵(今まで常設で出ていただろうか…)。
「聖ヨハネの祭火」「ウェサンの女」「3つの自画像」は大原美術館蔵。
この辺りが好き。
このうち、「ウェサンの女」「3つの自画像」「海の哀しみ」は版画。エッチングとかアクアティントとかドライポイントとか色々使ってたけれど、版画もかなり味わいがあっていいなあ…。
国立西洋美術館蔵「悲嘆、海の犠牲者」は写真OKの大作なんだが、海で溺死された人の遺体の前で悲嘆に暮れる方々、なので、かなり題材が重い…。
で、バンド・ノワールはシャルル・コッテだけではなく。もう二人取り上げられている。
アンドレ・ドーシェとリュシアン・シモン。
ブルターニュ生まれのアンドレ・ドーシェの妹さんが、リュシアン・シモンと結婚しているので義兄弟になるそうで、その縁でブルターニュで絵を作成することもあったとか。
シャルル・コッテと知り合って「バンド・ノワール」と扱われるのだが…実はこの二人、暗くない。
アンドレ・ドーシェは「松の画家」と呼ばれるほど松を題材にした絵が多いそうで(実は別のブルターニュ展にも作品が出ていて、それも松が題材)。
国立西洋美術館蔵「樹と流れ」は澄んだ空と松が印象的。
他3点はエッチングなんだけど、これも悪くないなあ。
でもってリュシアン・シモン。ネット検索した感じだと確かに暗い絵もあるのだが、そういう絵は夜の絵だからでは、という気がする。そのくらい、ぱあっと明るい群像の絵が多かった。とても楽しそうな。
写真OKだったのは2点、「庭の集い」と「ブルターニュの祭り」。
前者は恐らく夕暮れの庭でのパーティなので周囲は暗いけれど、設けられた踊るステージの光源がとても明るい。
後者はお祭りなので当然明るい群像の絵。
「曲馬場」(サーカスの絵)「婚礼」「二人の婦人」も明るめで素敵だった。シャルル・コッテを拝見した後だからかもしれないけれど。あと、日本だと明るい絵を集める方が好まれたのかもしれないし。
「曲馬場」は大原美術館蔵、それ以外は国立西洋美術館蔵。



「4.日本初、パリ経由、ブルターニュ行:日本出身画家たちのまなざし」。
実は日本画家でフランスに留学した画家も、ブルターニュで制作してたりするよ、という話。この視点はこちらの展覧会だけだねえ。
というわけで、日本洋画家の作品セクション。
東京国立博物館(というか黒田記念館)蔵、黒田清輝「少女」「ブレハ島にて」「ブレハの海岸」に、アーティゾン美術館蔵というか拝見したことがある「ブレハの少女」。ブレハってブルターニュ地方の地名だったんだな…。
久米桂一郎「ブレハ島」「林檎拾い」。「ブレハ島」は明るい風景画、「林檎拾い」はブルターニュの少女が二人林檎を拾っている雰囲気が良い作品。前者は東京国立近代美術館(拝見したことあるような)、後者は久米美術館蔵。久米美術館、目黒の駅近くにあるんだね。存じ上げなかった…。
埼玉県立近代美術館蔵の斎藤豊作「初冬の朝」は、とてもスタンダードにこの時代の日本洋画家の絵という感じ。斎藤豊作はもう1点、「夕映の流」が。こちらは東京国立近代美術館蔵、拝見した覚えがあるし、その時も今回も好印象。
山本鼎ブルターニュの小湾」足立源一郎「牛の習作」鹿子木孟郎「放牧」、それぞれ牛が可愛かったり格好良かったり。
山本鼎ブルトンヌ」、これブルターニュの少女だから「ブルトンヌ」なんだ!なかなか素敵。
森田恒友「フランス風景」は凄くセザンヌの風景画っぽい。
でもって、坂本繁二郎が2点。愛媛県美術館蔵「ブルターニュ」は空気感がたまらない。愛媛県美術館は好みの絵を沢山お持ちだなあ…。
そしてもう1つは京都国立近代美術館蔵「ヴァンヌ郊外」。これは京都国立近代美術館かアーティゾン美術館どちらか、もしくは両方で拝見しているはず。ヴァンヌってブルターニュの地名だったのか…。そうか…。



ちょっと視点が違う2つのブルターニュ展。
個人的にはどちらも面白かった。興味のある方はどちらの展覧会も拝見してほしいなあ。視点の違いも楽しめるし。印象派や風景画好きな方はいい展覧会だと思う。



この後常設展にそのまま行こうと思ったら、ふらっとしたので(え)一旦カフェ「すいれん」でお昼休憩。


写真だと上手く撮れてないかもだけど、雨降りの中庭がなかなか乙なもので。もう躑躅も咲いていたしね。



常設展に続く。