時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

美術館の悪ものたち@国立西洋美術館

morina0321-2.hatenablog.com
こちらの続き。
常設作品をぶらりと拝見してから、版画素描展示室の小企画。

www.nmwa.go.jp

国立西洋美術館には「悪ものたち」がたくさんいます。もちろん、職員のことではありません。

どんな振りなんだこれ、と思いつつも。
絵に描かれている「悪もの」の特集。描かれた時代に何が悪いこと扱いだったのか、という視点も込みで。


「罪深い人々」セクション。
トップはスケッジャ「スザンナ伝」。
絵の内容は下記Wikipediaを参照のこと。
ja.wikipedia.org
痴漢&罪のなすりつけという、今の時代でも分かりやすい悪。
「スザンナ伝」は絵の題材にされやすいらしいが。堂々と裸の女性描けるからね。…うん、まあ、結構そういうものなんで。
続いてアルブレヒト・デューラー「博士の夢」。寝ていることが怠惰、でもって見ている夢の裸の女性が淫欲、と。…いや、夢の中は許してあげようよ…と現代の感覚では思う。それはそれとして、デューラーの版画は凄いなあ。
似たような話としてはジャック・カロ「七つの大罪」。傲慢、怠惰、大食、淫欲、嫉妬、憤怒、貪欲の7つなんだが…全部女性で描いてて、これが全部綺麗で、これで大罪と言われても…というのはある。ジャック・カロの版画、素敵だよねえ。
続いてルーベンスの原画を元にした作品2点。ウィレス・パネーレスの「洗礼者ヨハネの首を持つサロメ」、原画はユディトを描いたものだそうで。いくらどちらも男性の首級保有絵だからって…(言い方)
あと、スヘルテ・ア・ボルスヴェルト「日本でのイエズス会士の殉教」は、二十六聖人のか…。


「悪魔と魔女」セクション。
題材よりも、デューラーが再び出ている、ここでもゴヤ「ロス・カプリーチョス」が出る、更にオディロン・ルドンまであるという、なかなか豪華なセクション。
オディロン・ルドン「聖アントワーヌの誘惑」は元々フローベールの小説を版画にしたそうで。


「魔物」セクション。
デューラーとルカス・クラーナハ(父)が両方とも竜退治をしている絵。
ピーテル・ブリューゲル(父)の原画にもとづいたフィリップス・ハレ「「七つの美徳」より、剛毅」は、美徳の化身として巨人を中央に描いていて、周囲には「七つの大罪」を表した魔物というか動物が退治されている、という図。孔雀も退治されていた。「傲慢」を表しているそうな。
版画素描展示室には珍しい油絵も展示されていた。ダフィット・テニールス(子)「聖アントニウスの誘惑」。聖アントニウス=聖アントワーヌ。途中で悪霊に襲われたり誘惑されたりするので、絵になりやすいそうな(フローベールの小説もそういう感じなのかねえ)。
で、囲んでいる魔物、結構ユーモラスである。魚に跨って空飛んでる蜥蜴的なのとか、普通にゆるキャラっぽい。一見ちゃんとした女性、と思ったら足が鳥だったり。
ダフィット・テニールス(子)、ピーテル・ブリューゲル(父)の娘婿だったりするので、この辺りのちょっとゆるい怪しげな生き物描くのは受け継がれてるのかもしれない。もしくは当時の流行かも。


「死」セクション。
ウィレム・ファン・スワーネンブルフ(マールテン・ファン・ヘームスケルク原画)「「世俗財産の悪用についての寓意」より、男に矢を放とうとする死」に、扉から入ってきて右手に矢を持っててそれを放とうとしている「死」の擬人化というか、骸骨的なやつがいるのだけど、なんというか、妙に軽く入ってきた感じが面白い。
デューラーもルドンもあるよ。


「近代都市の悪ものたち」セクション。
ゴヤ「ロス・カプリーチョス」がまたもや。まあ、このセクションだとそうか…。
「何たる犠牲か」も、オノレ・ドーミエ「表情のクロッキー」はその後の小題のタイトルもまんま、中年の男が若い妻娶ってかなりエロ親父的に迫ってる的な。「不釣り合いなカップル」的なふてぶてしさが女性にないのよねえ。
ドーミエは風刺画の画家なので、この手の悪徳的な絵では大活躍である。しかしどれもタイトルが長い(風刺説明書いてあるようなものだし)。
フェリシアン・ロップス「ポルノクラテスあるいは豚を連れた女」は、ほぼ全裸で豚を連れて戸外を歩く娼婦、という、なんだかなあな絵。周囲の天使(音楽とか芸術とからしい)には全く興味を示さない、食欲と性欲にしか興味がない、とかいう、なかなか身も蓋もない解説があったり。
エドヴァルト・ムンク「ハルピュイア」がここに。ハルピュイアが所謂ファム・ファタルを表している、とのこと。


前回と合わせてゴヤも沢山味わえる、なかなか楽しい小企画であった。
常設も結構楽しんでいた。