時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎@アーティゾン美術館

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京都国立近代美術館のコレクション展で触れた「東京での特別展」はこちら。
コレクション展(常設展)であれだけ拝見できたとなると、特別展はハードルが上がってしまうのではないだろうか、という一抹の不安が…。
坂本繁二郎が好みの画家なので、勿論楽しみも大きかった。
前後期制で、多少入れ替えがあるみたい。


最初は6階。
第1章「出会い」。
1-1「森三美先生」。
青木繁坂本繁二郎も久留米生まれで、森三美(もり・みよし)の画塾で出会ったようで。
で、坂本繁二郎「立石谷」でびびる。15歳の時に描いた油絵じゃなくて水墨画なんだが…めちゃくちゃ上手いんだけど?え、えええ…。水墨画だけど、洋画のような遠近法をきっちりと描いている絵。天才系じゃないか…。
森三美は洋画家なので、洋画の手ほどきを受けるのだが、以前、京都国立近代美術館で拝見した「秋の朝日」はこの頃の作品で、どうやら元の図版(「A. F. グレース『油彩風景画の指南書』」)を元に描いているらしく。道理で珍しい画題だと…。

1-2「上京、青春」。
青木繁が先に上京して、一時帰京した時に絵が上達したのを坂本繁二郎に見せて、坂本繁二郎がライバル心で上京した、という少年漫画っぽい感じの流れだったりする。
で、一緒にスケッチ旅行なんかもしてるんだよね。
当時のスケッチは青木繁の方が多く残っている。「碓氷川磧」「落葉径」「小諸宿外」辺りはなかなか良い雰囲気。
あと、両名の裸体や石膏像のスケッチ、あとは青木繁が興味があったらしい舞楽面のスケッチとか。

1-3「画壇へのデビュー」。
青木繁は白馬会展、坂本繁二郎は太平洋画会の展覧会でデビューしたそうで。
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太平洋画会は以前こちらで触れた。
で、その後千葉に一緒に向かって、青木繁は代表作の1つ「海の幸」を描くと。
この章、青木繁の展示が非常に多いので、制作充実してたのではないかなあ。画壇デビューはしたし、恋人もいたしね(ぼそ)。
個人的な好みとしては、多く描いている「海」のシリーズ(「海」「海景(布良の海)」等)とか、「闍威弥尼」「丘に立つ三人」みたいな宗教関係がモティーフのもの、「輪転」「狂女」「少女群舞」みたいなより幻想的な絵とか。
幻想的なのはなんか引っ掛かりがあるなあ、と思ったら、青木繁はどうもラファエル前派の影響を受けてたみたい。腑に落ちた。なるほど。
あ、京都国立近代美術館で拝見した「女の顔」も展示されていた。
でもって、宗教関係の流れなのかな、劇作家・中村吉蔵の翻訳した「旧約物語」に挿絵を描いていて、こちらの原画が出ていた。これが良い感じなんだよねえ…。
一方、坂本繁二郎はこの頃、画力は確かだけど多少画面が暗いかな、という絵を残している。
「早春」は農作業中の野菜を抱えた女性を描いていて、女性のくたびれ具合とかも凄く上手いんだけど、野菜が凄く生き生きした色をしているんだよねえ…。


第2章「別れ」。第2章で出てくる言葉じゃないという話はまあ。
2-1「東京勧業博覧会」。
この博覧会で、坂本繁二郎の方が青木繁より評価が高かったことが運命を分けた…というのがなんかいらっとくるなあという(あ)
いや、この時提示した青木繁「わだつみのいろこの宮」は個人的には好きな絵なんだけどさ。評価が不本意だったのも分かる。
ただ、青木繁は直後にお父様が亡くなったのが一番の痛手ではあったんだよねえ。なんというか、お金は人間の運命を変えるから仕方ないよ…(それを言ったら、坂本繁二郎は幼少の頃に父親亡くしていて、上にお兄さんがいたから(進学できないハンデはあったものの)多少絵に打ち込めた環境だったわけで)。

2-2「青木繁の九州放浪と死」。
青木繁はその後、家を出奔して九州を放浪して、お金を稼ぐために絵を描いていたのだが、その時代の絵が素敵である。
「月下滞船図」みたいな本格的なものから、「湯祭」みたいな戯れっぽい絵まで(それが味があるんだよねえ)。
風景画も素敵なものが多い。
青木繁は元々結核を患っていて、放浪して悪化して亡くなったんだよな…。
一方、坂本繁二郎はその頃結婚して、凄く安定した仕事をしていたり。「新聞」は奥様モティーフだったかな。いいよ。

2-3「青木繁顕彰のために」。
坂本繁二郎青木繁の没後の直後から、青木繁の顕彰運動に熱心だった。なんですかこの、少年漫画真っ青なライバルで親友…。
青木繁「自画像」はなんとも現実感が少なめで面白い絵で、並べられた坂本繁二郎「自画鏡像」は、とてもまともに描いている、という印象を受ける。


以降は5階。

第3章「旅立ち-坂本繁二郎」。坂本繁二郎のターン、である。
3-1「東京から巴里へ」。
坂本繁二郎は割と遅く(40歳かな)で渡仏してるんだけど、そこから色が変わっている。淡く、明るい。
「ヴァンヌ風景」「パリ郊外」「ブルターニュ」の幻想感がなんともいえずにいいなあ。
で、坂本繁二郎は馬の絵が多いけど、牛の絵もそれ以上に描いていて、この頃から顕著に。「うすれ日」が最初になるのかなあ。
「日本風景版画筑紫之部」の連作のような版画も手掛けてたり、肖像画というか人物も描いていたり、結構手広い。
人物画もきっちり描いているものもあれば、「読書の女」みたいに輪郭がぼやけてとても幻想的なものまで。個人的にはどちらも好き。
あ、あと、余談だけど、坂本繁二郎の絵に入っているサイン、「さかもと」って平仮名なんだよね。ちょっと可愛い。

3-2「再び故郷へ」。
渡仏後、坂本繁二郎は故郷の久留米に戻って、終生久留米で画業を続けてた。
ここは坂本繁二郎の絵が全開。幻想的な馬の絵、抽象画に近くなっていく静物画。
堪能。
で、この章にある「牛」がなんともいえない。座り込んでいる牛の背。牛に御本人を投影していた、という話もある。確かに坂本繁二郎、ゆっくりと、でも確実に人生を歩んでいった感じの方ではあるんだよね…。


第4章「交差する旅」。
青木繁坂本繁二郎の「共通の画題」を取り上げている。
4-1「能面」。
青木繁舞楽面描いてたから、まあ能面も派生で描きそうだけど(スケッチが結構残ってる)、坂本繁二郎もかなり作品を残している。
ただ、坂本繁二郎は能面を静物画として描いているので、なんというかその…ちょっと幻想的で、というか怖さまで感じるんだが…。妖しい雰囲気である。

4-2「「壁画」への挑戦」。
こちらはどちらかというと青木繁寄りなんだが、坂本繁二郎も壁画チャレンジしてることがあるとのことで。
こちらにあったレリーフ風の青木繁「春」(布に描いてるそうな)、これはラファエル前派を意識しているのか、それよりミュシャ的なものを意識しているのか。気になる。

4-3「絶筆」。
青木繁は九州を放浪して描いていて、最後に描いたのは「朝日(絶筆)」。海に上がる朝日。意外と前向きな画題だったんだなあ…。
ちょっと保存状態が悪くて、絵にヒビが入っているのが気になるけれど。
一方、坂本繁二郎は最晩年、月をモティーフに多く絵を残している。
偶然なんだろうけど、太陽と月、なんだな…。ちょっと出来過ぎじゃないですかって思わんでもない(あ)
幻想的なものも含めて、月の作品はとても素敵。
で、絶筆は「幽光」。月が雲に隠れて、光だけが微かに見える。素敵な絵だけれど、なんだか妙に切ない。


いやあ…良かった…。
青木繁坂本繁二郎に興味があれば是非、という展覧会。
後期展示になったら、また来訪するかもしれない。


続く。