時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

ブルターニュの光と風 -画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉@SOMPO美術館

www.sompo-museum.org
ブルターニュはフランスの北西部、フランスって四角っぽい形してるけど、北西部はちょっと半島が突き出てるんだよね。その部分。
で、ケルト文化の影響があって、ちょっと独特らしい。地方言語もケルト系だとか。
ケルト文化ってイギリスのイメージが強かったけど、元々はヨーロッパ大陸全体にあったっぽいので、ローマ化がヨーロッパ大陸の端や島嶼部だと進みにくかった、ということなのかもしれない。

で、そんな辺境の土地、19世紀中頃から交通網が発達した、ということもあり、そこにたどり着くフランスの都会の方、要は「観光でいらっしゃる方」もそこそこいらして。
19世紀は観光が流行ったんだよね。ミュシャの有名な「モナコモンテカルロ」(鉄道ポスター)なんか象徴的だと思う。
で、滞在観光的なことをする人たちの中には画家のグループもいた、というところにスポットを当てた展覧会。
「こちらの」展覧会は、大部分はブルターニュ地方の町・カンペールカンペール美術館所蔵。
「こちらの」というのは、実は同時期に同じテーマの展覧会が都内で開催されているという。そんなことってあるんだね…。そちらはまた別途触れる。

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入口のポスターが独特な絵で、若干微妙な顔になりつつ。リュシアン・レヴィ=デュルメール「パンマールの聖母」。
リュシアン・レヴィ=デュルメール、他の作品もネットで拝見したけど、この絵だけタッチが違う…。なんか宗教的な考えもあるのかな。

こちらの展覧会、結構な割合で写真OK。

「1.ブルターニュの風景-豊饒な海と大地」。
ブルターニュは半島なので海の傍、そして自然も豊富。
そういう、風景の雄大な、しかも巨大な絵が最初に3点。
まさに雄大な海と岩山の絵、海洋画家テオール・ギュダン「ベル=イル沿岸の暴風雨」。
エヴァリスト=ヴィタル・リュミネ「グラドロン王の逃亡」はとても動きがダイナミックで、なんとなくバロック的な感じを受ける。
ブルターニュ生まれのアルフレッド・ギユ「さらば!」もドラマチック。嵐に巻き込まれて船が大破して板にしがみついている漁師の親子、子供の方は今息絶えて白くなっていて、抱えていけないから手を放そうとする直前に別れのキスをしている、という…。まあ…海の傍だし、漁師も海難事故も多かっただろうね…。
その後も風景画が続く。エミール・ヴェルニエ「コンカルノーブルターニュの引馬」、エマニュエル・ランシエ「干潟のドゥアルヌネ湾」、アレクサンドル・セジェ「ブルケルムール渓谷、アレー山地」、カミーユ・ベルニエ「サン=タンヌの荒れ地」辺りが好き。この辺りはそれぞれカミーユ・コローの影響を受けていたりするみたい。風景画も素敵だし、結構馬を描いてる方が多いのだが、なんだか皆素敵に描く。
後はブルターニュの風俗や人物画を描いた絵など。
ポール=モーリス・デュトワブルターニュ女性の肖像」はとても美しかった。ちなみにブルターニュの女性は頭に白い頭巾を被る。コアフというらしい。
上記の「パンマールの聖母」もこのセクションの最後に。やっぱりインパクトが強い。


「2.ブルターニュに集う画家たち-印象派からナビ派へ」。
一番最初にこの地方が気に入ったのは、ウジェーヌ・ブーダンだったようで。
…いいの!?写真OKなの!?な「ノルマンディーの風景」。ちなみにこちらの所蔵は丸沼芸術の森埼玉県立近代美術館に寄託)。個人的に大きく反応しちゃうからそれ!
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推しを支援頂いてますからね…。
カンペール美術館からも水彩素描なのかな、の「教会前のブルターニュ女性」が。
で、ウジェーヌ・ブーダンからのクロード・モネ
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こちらの「ルエルの眺め」。初期の絵だ、と思ったら1858年=18歳の時の絵だよ!(丁度ブーダンと出会った頃)印象派画風になる前の絵だけれど…凄い上手いんだよなあ…。
愛媛県美術館所蔵の「アンティーブ岬」も出ていた。こちらは後年の作品でがっつり印象派
さて、ブルターニュにはその後、ポン=タヴァン派(ポン=タヴァンはブルターニュにある村)というグループが発生する。ポール・ゴーギャンとエミール・ベルナールが中心になるグループ。ポスト印象派、綜合主義を唱える面々。
カンペール美術館はあまりゴーギャンの絵自体は所蔵していないらしいのだが、素描やエッチングが。
個人的には鉛筆の素描「2人の音楽家」嫌いじゃないんだよね。しかもこれ、ボンバルド(ブルターニュ木管楽器オーボエ類なのだそうな)を演奏しているゴーギャンと、バグパイプを演奏しているエミール・ベルナールという題材だったりする。最終的には仲違いして別れる二人なのだが、妙な感慨が。
エミール・ベルナールも素描やジンコグラフ(リトグラフの一種で、亜鉛版を使用)。木炭と水彩で描いた「収穫」、ジンコグラフの「りんごの採り入れ」辺りは好き。
で、当時のゴーギャンにポン=タヴァンで教えを受けたのがポール・セリュジェ。その教えをパリに持ち帰って、仲間内に伝えて、それがもとにナビ派になった、という流れなんだね。ポール・セリュジェ「水瓶を持つブルターニュ若い女性」は確かにナビ派っぽいかも。
で、ナビ派のうちモーリス・ドニは、ナビ派でもあるんだけど、ブルターニュに興味があって赴いてる。
元々近所のノルマンディー地方出身というのもあるし、ブルターニュのパルドン祭り(元々はケルト人のキリスト教化が題材なのだが、ブルターニュの伝統的な衣装で着飾るので、画家は結構興味があったらしい)に宗教的な興味があったこともあったっぽい(モーリス・ドニは熱心なカトリック)。
「フォルグェットのパルドン祭」は暖色を使用して、本当に暖かい雰囲気を描いている。
「小舟の中のブルターニュ女性」は勿論ブルターニュだからカンペール美術館所蔵なんだろうけど、モーリス・ドニの母子の絵ってなんともいいよねえ…。


「3.新たな眼差し-多様な表現の探求」。
ナビ派よりも後年の、カンペール美術館所蔵のブルターニュ関連の絵画、かな。
ここにアンリ・マルタンブルターニュの海」が。
morina0321-2.hatenablog.com
そういえばマルタンは海岸辺りを訪れるのがお好きな画家でしたな。
この絵も、海が輝いていたよ。
で、更に、フェルディナン・ロワイアン・デュ・ピュイゴドー「藁ぶき屋根の家のある風景」。朝焼けなのか夕暮れなのか分からないけれど、赤く照らされる風景がなんともいえない。ゴーギャンパナマ行きに同行しようとまで思ったらしいけれど、画風は違っていて、独自。ちょっと点描っぽい描き方をしてはいる。なかなか素敵。
でもって、ゴーギャンと交友があってポン・タヴァン派にも参加…はしていたんだが、画風はかなり印象派っぽいクロード=エミール・シェフネッケル「ブルターニュの岩石海岸」。この辺りは割と印象派に馴染みがあると好み。
でもって、もう一人ポン・タヴァン派に参加したポーランドの画家・ウラディスラウ・スレヴィンスキー。「バナナのある静物」「水の入ったグラスとりんごのある静物」の2点の静物画…これは…凄くゴーギャン静物画っぽい…。この方、他の画風もゴーギャンっぽい。で、書き手、実はゴーギャン静物画が結構好みなので、こちらも気になってしまった。
で、ここまで印象派っぽかったりゴーギャン関係だったんだが。
いきなり展示されるギュスターヴ・クールベ「波」。愛媛県美術館所蔵。
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こちらでも拝見したなあ。
クールベ拝見できるのは嬉しいのだが、何故急に時代が戻ったんだ?と思ったら、このクールベから写実主義を継承して、ブルターニュを中心に活動した「バンド・ノワール」という一派が発生したのだそうで。ノワールってフランス語で黒、だよね。
代表なのがシャルル・コッテ。暗い…本当に暗い…。いや、これはこれで素敵。「嵐から逃げる漁師たち」「海」どちらも良かった。
その後の展示で気になったのはジョルジュ・ゴボ「ドゥアルヌネ、港の通り」。空の色は濃い目で、でも描かれている家と干されている洗濯物が、白と茶色で全体的にセピア。なんか好きだなあ。
こちらは写真NG(没後100年経ってない*1ので、著作権の問題もありそう)だったのだけど、ミュージアムショップでポストカードが作られていた。なんとなく分かる。家の描き方が日本人が好きそうというか、ユトリロっぽい感じもあるので。




思っていた以上に好みの展覧会だった。
この日も続くし、別の日にも続く。

*1:Wikipediaがフランス語でしか作成されてなかった…