時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション@練馬区立美術館

練馬区立美術館は初めての場所。
最寄りの中村橋駅は知人が住んでたりしたので、聞き覚え自体はあるところ。徒歩3分。

…なんですかこれ。

…もしや…練馬大根…?

練馬区立美術館の入口はこんな感じで、アートな動物たちもいる公園になってる。子供が沢山遊んでてほっこり。
練馬区立美術館自体は図書館と併設。

入口にスタインウェイ社のスクエアピアノなんかもあって、なかなか本題に入れない(落ち着けよ)


本題。
www.neribun.or.jp

吉野石膏コレクションを使用した展覧会。
morina0321-2.hatenablog.com
三菱一号館美術館でもあったけれど、吉野石膏のコレクションは多分個人的に好みなはず。
しかも今回は「貴重書」。実は展覧会のチラシを別展覧会で頂いたのだが、そこに載るのは時祷書。
morina0321-2.hatenablog.com
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ううん、書き手の好み過ぎる。


最初は1階にて展示。
「第1章 ヨーロッパ中世・ルネサンスの美しい本の世界」。
いきなり来るよ時祷書。しかもこのセクション、写真OK。えええええ。
そして惜しげもなく並ぶ、中世の美しい時祷書の数々。表裏どちらも拝見してほしいものは、アクリルスタンドに挟んで展示してある。ありがたい…。
中世ヨーロッパの時祷書は手書き&写本で伝わっていくのだけど、木版や金属版の印刷ができてからも、時祷書の美しいレイアウトが一部受け継がれていったり。
既に木版があっても特殊な絵の場合は写本で作られたり、20世紀にデザインをそのまま生かしたくてわざわざ羊皮紙で装丁して、中世の楽譜をデザインに使ったり。
一方、ルネサンス時代の印刷物としては「ポリフィロのヒュプネロトマキア」という本が。Wikipediaだと「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」となってる。
当時の物語らしいのだが、文字のレイアウトが不思議。1ページに、逆三角形というか、どんどん文字が書いてある部分が狭まっていく。なんだこれ。
ポッカチオ「デカメロン」の当時の印刷本も出ていた。
本だけではなく、木島隆康のフラ・アンジェリコの祭壇画の模写(凄く綺麗!)に渡邉郁夫のヤン・ファン・エイクペトルス・クリストゥスの絵画の模写、時祷書のデザインに触発されたようなヴァティカン宮殿の回廊「ラファエロのロッジャ」の柱装飾や、時祷書の挿絵に使われた版木や、書見台書見台に繋がれた鎖付き聖書(盗まれちゃうからか!)のミニチュア、写字台再現や写本道具まで展示。
面白いのは、金箔を使う時に、金貨を潰して金箔を作ってる形跡があること。昔はそんなこともやってたんだな…。


ここから2階での展示。2階は写真NG。
「第2章 近代における書物:美しい本が芸術となるまで」。
主な場所は19世紀末から20世紀始め頃のロンドン。
19世紀のロンドンで本というと、ウィリアム・モリスが頭を過ぎるし、実際ウィリアム・モリス装幀の本も出ていた。その他にも本はあったので、どうも流行だったみたい。
で、今回の主役は出版社「エラニー・プレス」、その創立者のリュシアン・ピサロ。…カミーユピサロの長男だと!?
カミーユピサロの家は一度ロンドンに転居(普仏戦争で避難)して、多少ロンドンに縁があって、その後に息子さん達(ピサロ家は子沢山)がロンドンに住んだりとかしていたらしい。
以前上記の展覧会でも拝見して今回も展示されていたカミーユピサロ「ロンドンのキューガーデン、大温室前の散歩道」は、リシュアン・ピサロの結婚式でロンドンに赴いた際に制作したそうで。
あ、「エラニー・プレス」はリシュアンの妻・エスターも一緒に作品制作してたみたい。
ウィリアム・モリスは結構ゴテゴテに書き込んでるイメージがあるけど、エラニー・プレスの作品はそこまで書き込みは少ないかも。余白がある方が個人的には好き。
「楓の犂」はなんと原画がカミーユ&リュシアン、版刻がリュシアン&エスター夫妻という親子合作。ふおお。
あと、リュシアンの小さな版画作品もちょいちょいあったのだけど、こちらは蔵書票っぽい。
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蔵書票はこちらで知ったなあ、と思っていたら、ヴァロットンの蔵書票っぽい小作品「茂み」が展示されてて吹いた。個人的にツボ抉ってくるんだけど…。
更に一角に、印象派(モネにルノワールゴッホって王道)やジャン=フランソワ・ミレーの絵がずらっと並んで、それに関連する本も並んでいたり。
ボードレール悪の華」、ドローイングがオーギュスト・ロダンなんてのも展示されてたぞ(流石にコロタイプによる複製だったけれども)。
ナビ派モーリス・ドニの原画の本とか、絵画書評とかも。
更に時代が進んで、マティス・ドンゲン・カンディンスキー・ブラック・ミロ・シャガールピカソ、なんて辺りと書評とか批評本とかと一緒に出ていたり。抽象画は本と結構相性いいよね。一種のデザインにも見える。
藤田嗣治もここだったなあ。


「第3章 本と絵画で見る日本の芸術」。
というわけで日本画。きっとビッグネーム多いんだろうな、と思ってたら、いきなり伊藤若冲「萬歳」。
こちらはデフォルメした踊る芸人、という感じなんだけど、凄く可愛い。若冲はこういう、ちょっと気の抜けた絵の方が個人的には好みなんだよねえ…。
一緒に葛飾北斎北斎画譜」が展示。ああ、なるほど、本というのはこういう感じか、と思ってたら、いきなり渡辺省亭の絵画「春秋瀑布図」と、本になっている「省亭花鳥画譜」が出てきたのだが。
…え、なんですかいきなり、書き手の息の根を止める気ですか(落ち着け)
でもって、上村松園「深雪の図」(こちらは展覧会チラシにもあった)「美人書見」、鏑木清方「肌寒」。
で、泉鏡花「式部小路」の挿画が鏑木清方だったりして。泉鏡花と組むのはあるあるなんだが、ビッグネームの絵画を、関係ある本と一緒に展示してくる。
川端龍子「白川女」という題材なのになんだかひどく現代的に感じる女性の絵と、川端龍子が装幀している歌人・橋田東声の歌集「無限の道」とか。
光源氏と頭中将を描いた安田靫彦「須磨」、とても不格好で味のある徳岡神泉「柿」と、谷崎潤一郎訳・安田靫彦装幀・徳岡神泉他挿画の「新々訳 源氏物語」とか。(当時の)現代語訳している谷崎潤一郎もビッグネーム…。
太宰治「虚構の彷徨・ダス・ゲマイネ」の装幀が向井潤吉。
自らのエッセイ「哀母記」に自ら挿絵を入れる棟方志功
岸田劉生東山魁夷の画集。
加山又造が描く雑誌「中央公論」の表紙原画(とても格好いい)。
梅原龍三郎安井曾太郎が編集指導してて手本として小磯良平が参加している「ぬりえ」「ぬりえ練習帖」…どんな豪華な「ぬりえ」だよ…。
勿論それぞれ、本業の絵画も展示されている。
あの…絵画だけでも普通に展覧会として成立すると思うのだが…ここまで関連する書籍と一緒に展示してくるのが凄い。
実は展示数も相当で、第3章が約60点。一番多いのが第2章の95点ほど。いくら本の装幀や版画が多いからって…。第1章が一番少なくて、それでも約40点。


なんというか、色々なものにあてられた感じでこの日は終了。
大変良かったけれど、消化吸収がしきれてない気がする…!




余談。
この日は新宿→練馬(中村橋駅)という流れだったので、池袋乗り換えだった。
bladecatcher.hatenadiary.jp
思い出しまして。


購入致しました、バターブラザーズのフィナンシェ。とても美味しかった…!
プレーン味も大変美味しいのだけれど、お茶入りのものを頂いたらとても濃厚なお茶で、これはこれでまた味が違った方向に美味しい…。