時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

インドネシアの絣・イカット ~クジラと塩の織りなす布の物語~@たばこと塩の博物館

www.tabashio.jp

布関連の展示が続く。


たばこと塩の博物館は前回もそうだったが。
morina0321-2.hatenablog.com
どうしてこう、好みの織物の展示をしてくれるんだろうね…。
まあ、前回は「塩袋」ということもあったのだと思う。
そして今回も「塩」が絡む。


さて、特別展示の前に、3階のコレクションギャラリーへ。
こちら、たばこと塩の博物館の一角で、3階はたばこ関連なのだが、どうも結構展示が変わってくれるようで、今回はどんなものかな、と。
今回は煙草ジャー。パイプとか煙管とかで吸う場合の煙草を保管しておくものの様子(書き手は非喫煙者のためよく分からない)。
西洋は結構ゴリゴリに彫刻を入れ、中国は紫水晶や薔薇輝石で作り、日本は色々あるけど結構丸っこいのが多い。椰子の実で作ったりも。
あ、「茂林寺狸」形もある!(要は「ぶんぶく茶釜」ですな)


本題の特別展示は2階。

びっくりしたのが、今回、写真撮影全てOK。
こちらは民族考古学を研究していらっしゃる江上幹幸(ともこ)氏の収集物&研究成果からの展示になるらしい。
詳細はサイトを読んで頂ければいいかと思うが、イカットはインドネシアの絣織物。で、今回中心に取り上げられるインドネシア・レンバタ島は伝統捕鯨をしている島なのだそうで、島の生活に直結しているのが伝統捕鯨であり、イカット作りであり。
…ええと、書き手、こういうの、ドストライクなんですが…?


第1部「レンバタ島のイカット」。
最初はイカットがずらり。
赤茶色(茜や藍を使用して染織)で色合いは地味、幾何学的な模様。
書き手は好みである。
レンバタ島は先住民で農業を営んでいる「山の民」と、他島からの移民で漁業、特に伝統捕鯨を行っている「海の民」が暮らしていて、どちらもイカットを制作する。
衣服の綿や染料の茜・藍を栽培しているのは「山の民」だが、「海の民」は綿・茜・藍を「山の民」との交易で得ている。
イカットはどちらも制作する。で、イカット自体も交易になるらしい。*1
なので、第1部には「海の民」と「山の民」のそれぞれのイカットが展示。ちなみにどちらも女性側の婚資となるらしい。あ、イカット織りは女性の仕事。
「海の民」と「山の民」、1点はっきりした違いのあるものはあるけれど、そこまでデザイン区別はなさそう。色の多さと模様が婚資用>=晴着>日常着、という感じ。写真の方が分かりやすいかと思うので一部(ガラスで多少反射してるのはお許しください)。

婚資用

晴着

日常着。とてもシンプルで、白地のギンガムチェック的な感じ。個人的には日常着も好き。
これらは「海の民」のもの。晴着で分かるかもしれない、「海の民」特有の、鯨と船。伝統捕鯨の様子をそのまま織っている。


第2部「レンバタ島のイカットを生み出す「海の民」ラマレラ村の暮らしの文化」。
イカット制作と密接に繋がっている「海の民」の暮らしについての解説。
綿・茜・藍を栽培するのは「山の民」なのに「海の民」目線?となるが、実は藍を染料に変えるために必須な石灰を作成するのが「海の民」。「海の民」との交易がなければ、染色ができないんだなあ…。
で、「山の民」は農作物・綿・染料(茜・藍等)・ヤシ・イカットを交易材料にして、「海の民」は鯨・塩・石灰・イカットを交易材料にすると。
で、「海の民」は、基本的に男性が漁に出るので、イカットを織るのも石灰を作るのも鯨肉を加工するのも製塩も、更に交易を行うのも女性の「陸の仕事」。


まず、最初のセクションは「陸の仕事」。
最初に展示されているのは織るための道具と、工程の説明展示。木製綿繰機に彫られている模様がなかなか美しい。こういうの、専門で作る方がいらっしゃるんだろうか。

で、そこからイカット作りの工程。綿から糸を紡いで、括って糸を絞り染めして、織る。
括る時にヤシの葉を使っていたりする。徹底的に地元や交易で得たものを使うんだな…。
写真には、頭に籠を載せて何かを運びながら(恐らく交易?)、糸を紡ぐ女性も映っていたりして。こちらで言うところのスマホ歩きみたいな(多分違う)。

一方、染料作りや、藍染料を作成するのに使う石灰作りの話も。ちなみに石灰は嗜好品・キンマにも使われている。
キンマは東南アジアに広く使われている嗜好品だけど、この村では女性が使用している(というのは、男性は喫煙の習慣があるから)。
余談だが。
morina0321-2.hatenablog.com
日本ではキンマという言葉は「蒟醤」という東南アジアの漆芸で伝わっている。…なんでそうなったんだ…。キンマを入れていた器が所謂「蒟醤」だったという説もあるらしい。
石灰は男性が獲ってきたサンゴから作成する(だから海の民の交易品)。
薪を燃やすなどの間に待ち時間があるので、その間にキンマを噛んでいる写真があったり。糸を紡いだりもするらしい。

あとはこの博物館では一番近しいところであろう、塩作り。この村では天日製法。同じ地域でも別の場所だと製法が違っていて、その展示もあった。まあ、この辺は博物館の専門でもあるしねえ。
塩も交易品にもなるし、鯨肉の保存や加工にも使うそうで。鯨の脂皮を塩漬けした「ムドゥ」という保存食も交易品になるとのこと。ムドゥの作り方も展示されてた。

そして後は交易。頭に籠を載せて女性たちが市場に売りに行く。
ちなみに市場は物々交換なんだけど、だいたいの交換レート「モガ」が決まっている(品質に左右されるが)のも面白い。


そして次のセクションは「海の仕事」。
鯨漁の展示。
上述した伝統捕鯨の模様があったが、本当に模様の形の船で、12人乗る10メートルぐらいの木製帆船(プレダン)が団体で出かけ、鯨を見つけたら、銛の打ち手(ラマファ)が自分たちで作成した大きな銛を持って、自分の身体ごと鯨に向かってダイブ!
写真もあったけれど、感覚的には海の上に棒高跳びのポール立てにいってる感じ。
…なにこれすごい…。
ちなみに基本的に狙いは鯨類(シャチ含む)だけど、エイやマンボウも獲物になるみたい。
で、獲物を浜に引きずって持って帰り、分配ルール(鯨を発見した人とか一番最初の銛を打った人とか、細かく決まってる)により鯨を分配する仕組み。
例えば寡婦とか、漁に出られる家族がいない女性や子供にも、トウモロコシや揚げパン等で鯨肉を交換できる仕組みもある。こういう鯨漁だと命落とす男性も多かろうしな…。
漁は雨季が休漁期(ただし鯨が出た場合は必ず漁に出る)だそうなのだが、その間に道具作成(鉄は専門の鍛冶職人がいるらしい)とか船のメンテナンスをするのかなあ…。
ちなみに道具はほぼ男性が作るのだが、イトマキエイ漁で使用する銛綱には必ず女性が作るものがあるとか。儀式的、神聖なものとして取り扱われているらしい。そこは鯨じゃなくてエイなんだよね…。不思議。

そして更に補足情報として、様々な物品に使われているヤシの話。
キンマはキンマという植物の葉でヤシの実と石灰を巻いたものだし、油はヤシ酒になったり。実の殻をカップにしたり。
ヤシの葉をたばこの巻紙にしたり、結束用の紐にしたり、更に色々な小物に使用したり。籠に、たばこ容器に、キンマ容器にキンマ用バッグ。たばこ容器はそこまでじゃないけど(でも可愛い)、キンマ容器やバッグがとてもカラフルでポップなのは、やっぱり女性が使うからなのかなあ。
そういえば、この博物館だとたばこの方に結構触れるかと思ったら、意外とキンマの話の方が多かったりして。たばこは栽培してるんだろうか。その辺の話が出てこないので、ちょっと気になったりした。


第3部「インドネシア東部のさまざまなイカット」。
江上氏の研究対象だったレンバタ島以外のインドネシア東部(地図を見るとバリ島より更に東の諸島郡+ティモール島西部(東部は東ティモール共和国=別の国))のイカット。
レンバタ島のイカットよりもまず色がカラフル。日常着ですらも地を藍や茜で染めていたり。
ティモール島西部になると、絣織以外の織り方まで出てきて、文様が細かく複雑に。
地域によって村によって模様は違うみたい。


イカットは勿論素敵だったけれど、それ以上に生活様式がとても興味深く、ツボだった。
なので。

もうちょっと知りたいと思って、ミュージアムショップで本を購入してしまったり。まだ手付かずだけれど。
あ、イカットから作った小さな鞄も買っちゃった。

*1:「山の民」にはイカット制作が伝統的に禁止されている地域があるそうで、そちらは交易でイカットを得ることになる。何故禁止されているかの記載はなかったなあ…