時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

イギリス風景画と国木田独歩@茅ヶ崎市美術館


茅ヶ崎までは東海道線グリーン車を使うと、ちょっとした旅行気分でいいよ。休日はちょっと混んでるけど。

実質8/11から長期休暇に入ってて、この日はちょっと遠出を。

駅から「高砂通り」という、最初は居酒屋とか雑然としてるけど、それからお洒落な店が点在する、という通りを行く。
あ、「高砂」は「たかすな」と読む。うっかり「たかさご」って読んじゃうよね…。
で、途中に「高砂緑地」という場所がある。駅手前方面が日本庭園と茶室があって、美術館の入口はちょっと先。



なんだか色々な碑がある…。
最初は川上音二郎貞奴の碑。「高砂緑地」は明治時代に御二人の別荘があったところ。碑だけでなく、当時の井戸が残っている。
でもって茅ヶ崎に居住した山田耕筰の碑(「赤とんぼ」制作が丁度茅ヶ崎居住時代)、茅ヶ崎で療養、終焉の地になった八木重吉の碑。


更に急に出てくる洋風的な建物。
ここ、は川上音二郎貞奴の別荘になった後、実業家の原安三郎が別荘としていて、その洋館部分の遺構。素敵なの残ってるなあ。


で、やっとたどり着いた…。入口は緑地で、それからゆるやかに丘を登ったところにある。
奥まったところにある閑静な美術館。素敵な立地だなあ。


素敵な場所だったので前置きが長くなってしまった。
本題。
www.chigasaki-museum.jp
あんまり美術系の展覧会で名前が出ることはなかろう、国木田独歩
国木田独歩茅ヶ崎で療養していた…というか、八木重吉と同じ、南湖院というサナトリウムにいたんだね。
で、国木田独歩の随筆「武蔵野」が風景の美しさを描写した随筆で、そこからイギリス風景画の話に繋げるという。
ワーズワースも挟む(なので展覧会の「プロローグ」にワーズワースが出てくる)みたいだけど、まあなかなか強引な繋げ方のような…。
郡山市立美術館と府中市美術館から作品をお借りしての展覧会。
イギリスの風景画なら有名どころもいらっしゃいますし、目の保養には良さそう、と、こんにちは。
写真は一部OK。

受付は1階、そのまま1階から。
「第1章 イギリス・ピクチャレスクな風景」。
いきなり美しい風景と、真ん中の荷馬車を曳く牛が可愛い絵が出てきたぞ、と思ったら、トマス・ゲインズボロ(ゲインズバラという表記が多いけれど、今回はこちら表記なのでこれで行くよ)「荷馬車のいる丘陵地帯の森の風景」。これが写真OK、だと…?
ゲインズボロはもう一つ、「牧夫と牛のいる森の風景」も。こちら、鉛筆画。…鉛筆だけど凄い上手いし美しい…。
で、続くのがジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの水彩「コニストンの荒地」にエッチング「ワイ川」。
前者は色彩が美しく、後者はセピアで水浴びしている男性と牛、という牧歌的な風景。
でもって、ジョン・コンスタブルのメゾチント作品4点どーん。
morina0321-2.hatenablog.com
イギリスの風景画の話をするなら、そりゃあ展示されるわけで。メゾチント=銅版画なのだけど、どれも素敵な作品。
今回の「イギリス画家の風景画」は郡山市立美術館からお借りしているのだが、なんだか凄くいい絵をお持ちでいらっしゃいます…?
存じ上げない画家の作品も数点。
ウィリアム・ギルピンのエッチング&ドライポイントの版画「風景六種」は妙に滑らかなタッチで綺麗。ギルピン、実はこのセクションのタイトルになってる「ピクチャレスク」の提唱者。
ジョン・クロームの油彩「ヘレスドンの眺め」は写真OK。美しいので撮る。

「第2章 旅への憧れ、グランド・ツアーへ」。
第1章は牧歌的な風景画が多かったのだけど、この章は建物が入ってくる。
館とか、修道院、神殿等、都市景観もあったり。
書き手は不勉強でターナーしか名前分からない…ってちょっと待って、ジョン・ラスキンがしれっと混ざってたぞ…。
morina0321-2.hatenablog.com
ジョン・ラスキン「オーヴェルニュの丘」は面白い絵ではあったけれども。鉛筆画なんだけど、建物の壁をぺたっと塗ってて。実験的というか。
置いといて、名前は存じ上げない画家が多いのだけれど、素敵な絵が多い。
ピーター・デ・ウィントの水彩「ウィットビー」は写真OK。建物は遠景になっていて、どちらかといえば第1章っぽくもある画題ではあるけれど、悪くない。
一番おお!?と思ったのは、トマス・ガーティン。エッチング&アクアチントの版画作品が2点あるのだけれど、アクアチントの面の濃淡の作り方なのか、とても素敵で驚く。
トマス・ガーティンはターナーの友人でライバル、要はターナーも認めてる画家なんだけど、27歳で夭折しているのでターナーほどメジャーではないようで。…夭折…勿体ない…。
あ、ターナーの作品自体は版画で6点。「ネッカー川対岸から見たハイデルベルク」は写真OK。

「第3章 理想的、幻想的な風景」。
こちらはフィクションの景色を描いた作品集。
最初はリチャード・ウィルソン「キケロの別荘」。こちらは写真OK。穏やかな夕暮れの真ん中に小さい母子、その傍に馬を連れた人、という、なんともいい感じの風景。理想画かもしれない。
ターナーも2点あるんだけど、「ノアの大洪水」という題材の絵は、同じ題で展示されているジョン・マーティンの方が評判が良かった、という話も。確かにジョン・マーティンの方がドラマチックというか。
ジョン・マーティンは複数展示されていて、色が鮮やかだったのもあったり。
でもって小さな作品が4つ。エドワード・カルヴァートの木口木版4点。ここまで銅版画だったので木版は珍しい。タッチが違うんだよね。
で、このセクションで個人的に一番好みだったのは、サミュエル・パーマーのエッチング作品。フィクションというか、理想画なんだろうね。「生命の朝」は写真OK。

「第4章 イギリスと日本」。
いきなり日本入ってきた、という感じなのだが。
幕末、記者として来日したチャールズ・ワーグマンから日本人に洋画が直接教えられて伝わった、という流れ。
でもって、19世紀後半のイギリスはジャポニズムが流行し、日本に憧れて明治になってから、イギリスの洋画家が来日し、その作品を見た日本人に洋画が伝わった、という流れ。
後者の流れ(今回展示されていたジョン・ヴァーレー・ジュニアの作品影響)で三宅克己が洋画家になり、彼が国木田独歩と親交があった、という繋がりになったりする。国木田独歩自体は編集者だったということもあって、結構顔が広そうではあるんだけど(ちなみに小杉未醒とも懇意にしていたらしいのだが、未醒の絵は展示なかったなあ…)。
イギリスの洋画家の中ではアルフレッド・ウィリアム・パーソンズ「箱根の秋」が良かったなあ。明るくて。
一方、日本人画家。
まずは三宅克己と同じく、ジョン・ヴァーレー・ジュニア影響で洋画家になった大下藤次郎。「蓮池」は写真OKだったのだが、これが本当に美しくて。
他にも丸山晩霞、鹿子木孟郎、満谷国四郎、でもって吉田博に吉田ふじを御夫婦まで。この辺りの明治の洋画家好きな方はたまらないラインアップ。
ちなみに、このセクションは府中市美術館所蔵が多い。そういえば、府中市美術館はこの辺りがテーマの展覧会、結構やっていたような…。
吉田博「雨上がりの少年のいる風景」はとても良い感じで素敵な作品だった。吉田博は新版画で有名かもだけど、版画にとりかかる前の水彩画も凄くいいよね…。
鹿子木孟郎北多摩郡府中駅」も写真OK。鉛筆デッサンだけど、凄く精密で格好いい。
で、このセクションは2部屋になっていて、次の部屋に入ったら、いきなり原撫松の風景画2点。撫松の風景画…!あるんだなあ…。「霧の広場」「アルバートメモリアル」どちらも素敵でしたよ。
でもって南薫造も3点。「日没」は少女二人がシルエットのようになって、目の前の川(運河?)も揺らめいて、遠くの都心の景色と溶け合ってるような絵。南薫造ってこういう感じの絵画もあるんだ…。
でもって牧野義雄が2点。ずっとイギリスで絵を描いていた画家なのか…。不勉強で存じ上げず。「霧の画家」の異名があるそうで、写真OKだった「チェルシー発電所遠望」は本当にそういう作品。


第1章から3章までと、第4章はちょっと趣は違うのだけど、逆に2つ展覧会を拝見したようなお得な感じ。
ありがとうございました。


さて、ちょっと遅くなってしまったお昼。
茅ヶ崎市美術館にはカフェが併設されている(入場券なしで利用可能)。
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X(Twitter)に載せた写真が頂いた「プレートセット」の「ソーセージ&ハムセット」。プレートだしそんなに量はないかなあと思っていたのだけど、写真でお分かりだろうか、野菜が縦にてんこ盛り。ちょっとびびった。
野菜もソーセージ&ハムも茅ヶ崎市の地元の生産だそうで。
味も勿論、目にも大変美味しゅうございました…。