時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

特別展 オタケ・インパクトー越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム@泉屋博古館東京

別趣味を拝見してからなので、少し遅めに。
sen-oku.or.jp

尾竹竹坡を最初に認識したのは東京国立近代美術館
その弟の国観を最初に拝見したのは泉屋博古館東京のはず。
今回は二人の兄・越堂を加えた尾竹三兄弟にスポットをあてた展覧会。
…なんか物騒な展覧会名だが。
前後期制。こちらは前期。


まずはホールに、群像絵。
国観「絵踏」。要は、踏み絵を試されてる女性、促す役人、周囲の見物人、という図。
これが美しい。
試されている女性、促す役人、見物人の多種多様さ(老若男女、外国人もいる)、それぞれの表情。
踏み絵の母子像も結構綺麗に描かれているんだよな…。
国観、人物画がとても上手い。アナキズムなんて言われるような作品でもない。むしろ正統派な感じも。
こちらだけが写真OK。いや、この作品が写真OKはありがたいよ…。


「第1章 「タツキの為めの仕事に専念したのです」-はじまりは応用美術」。
尾竹三兄弟は新潟の紺屋に生まれている(お父様も絵を嗜んでたようだけど)。それぞれ絵画は上手かったのだが、ちょっと実家の商売が思わしくないというのもあったようで、それぞれ絵画を生計の足しにしたりしている。
一番最初に国観が若くして上京、小堀鞆音の弟子に。とても合点がいった。なるほど、小堀鞆音にタッチが似ているんだ。
越堂は新聞の挿絵を行ったりしつつ、富山に移住して、売薬版画(富山絵)というのを描き始めた。売薬版画は何かというと、富山の薬売りが薬を売った時の、おまけでつける版画。これがなかなか評判だったらしく、越堂が弟二人を富山に呼び寄せて、暫く三人で売薬版画を描いていたらしい。当時の作品もいくつか出ていた。一番越堂が浮世絵っぽい感じで描いてたかな。
で、その後、竹坡と国観が二人で上京、国観は再び小堀鞆音に師事、竹坡は川端玉章に師事(小堀鞆音にも習ったりしたみたいだけど)。
そのせいか、国観は人物画が上手いけど、竹坡は人物よりも背景の風景の描写がとても素敵。
越堂も数年後に二人を追いかけるように上京して、三兄弟で東京で活動をし始めている。
このセクションの作品だと、竹坡がかなり良い感じである。
「渡船場」は朦朧体のような作品で、「母と子(真心)」は授乳中の母がいい表情をしている。「花吹雪」も美しいなあ。
越堂は「韓信忍辱図」が色が綺麗で良かった。


「第2章 「文展は広告場」-展覧会という乗り物にのって」。
文展に提出する作品なので、大型の作品が多い。
で、三兄弟とも文展で評価されていたのだが、竹坡が岡倉天心と対立しちゃって(後輩を自分より上に評価されてむかついたらしい)それで三兄弟とも岡倉一派とは袂を分かつことになってしまったという。
ただ、所謂主流派と袂を分かった割に、これから上げる作品はその後に評価された作品ではあるんだが。
越堂は「徒渡り(かちわたり)」。水の流れの描き方が独特。川を渡るのに背負われてる女性がいいなあ。
竹坡は「おとづれ」。草花、そして竹の描き方の繊細さよ。
国観は「油断」。これは戦場で、急襲された時の陣内から大慌てで出陣する群像図。くつろいでいた女性なんかもばたばたしてて、構図とか人物描写がとても凄い。鎧の描き方とかも流石で、小堀鞆音の弟子だなあ…としみじみ思う。


「第3章 「捲土重来の勢を以て爆発している」-三兄弟の日本画アナキズム」。
タイトルは「三兄弟」となっているが、国観はそんなに何かを変えているわけではない。
越堂は失題されている作品が。こちら、今村紫紅っぽいタッチ。確かに日本画を変えようとしている感じはわかる。
問題は竹坡である。
「庄屋」はナビ派っぽい趣。うん、それはわかる。ナビ派ジャポニズムの影響あるし、和洋折衷みたいな感じはするね。
「大漁図(漁に行け)」はなんか凄い魚介類が画面ぎゅうぎゅう。これはこれでなんか凄い。
「月の潤い・太陽の熱・星の冷え」。…え?これ日本画っていうか…前衛じゃん…!1920年の絵画?作品的にはシュルレアリスムっぽいけど、まだシュルレアリスム宣言(1924年)より前だよ?カンディンスキーは全盛期かな、そのくらいの時期だよね。
…流石にこれはびびる…。何を見てるんだっけ書き手、となった。
油彩じゃなくて、日本画でこれをやるのかあ…。
ちなみにこの絵画を描く前(「庄屋」が1914年だからこの頃かな)に、竹坡は美術行政制度を変えたいと思って議員立候補して落選したりしている。それで借金作って大変だった模様。なんか…三兄弟というより、竹坡が破天荒なんじゃないかな…。


「第4章 「何処までも惑星」-キリンジの光芒」。
尾竹三兄弟、晩年はどちらかというと個人の依頼で作品を描いてたことが多いっぽい。
あと、竹坡は目黒雅叙園の仕事をしたり。下記で触れたなあ。
morina0321-2.hatenablog.com
それもあってなのか、このセクションで展示されていた国観「手古舞」は目黒雅叙園旧蔵だとか(現在は故郷・新潟の雪梁舎美術館所蔵。ホームセンターのコメリの企業美術館なのか)。
「手古舞」は女性が男装してお祭りに参加するそうなのだが、やっぱり人物画上手いなあ。
竹坡も晩年にも素敵な作品を残している。
「ゆたかなる国土」の色彩が美しい。
そして「大地円(だいちまどかなり)」。インド辺りの人物と風景画っぽく、非常にエキゾチック。
あと、竹坡の画帖も展示されていた。やっぱり画帖の素描から上手い…。


最後は「特集 清く遊ぶ-尾竹三兄弟と住友」。
尾竹三兄弟、住友家の15代当主・住友吉左衞門友純(春翠)と懇意にしていたようで。美術界ではあんまり評判良くなかったであろう三兄弟、それでもまあ…目利きだったんでしょうなあ、春翠…。
というわけで泉屋博古館所蔵の作品が。
三兄弟の、住友家の宴会での「席画合作屏風」が展示されている。勿論その場の即興だからさらっとだけれど、とてもおめでたい図柄である。いいなあ…。
以前も拝見している作品が出ていたけれど、越堂「白衣観音像」は、春翠が亡くなった後、冥福を祈るために寄贈されたようで。越堂、ちゃんとした方だよねえ…。


展覧会タイトルがアレで、確かに作品に破天荒なものもあったけど(あと性格的にもまあ…)。
でも、日本画の基本はちゃんとあって、思った以上に日本画の美しさを持ちながらも、その上での模索はなかなか興味深いなあと。
前後期制で、作品が大分入れ替わるということもあって、後期来訪も視野に入れつつ。


あ、そうだ、今回一番ある意味「破天荒」だと思った話をしなければ。
artexhibition.jp
美術展ナビで連載されている日本画家の漫画なのだけど…最後のコマ…いやマジでなんでそれ撮ったんです…?(真顔)
www.nhk.jp
この番組で写真の実物が紹介されてひっくり返ったよ…NHKもそういうネタ逃さないというか…。ちなみにこの番組のBGM、「だんご三兄弟」だった。ああ、「じぶんがいちばんじなん」ですねわかります…(遠い目)

ちなみに漫画はまとめて本になってるんだけど、欲しいけど単行本のみなんだよねえ…。



HARIO Cafeでコーヒーを頂いて帰宅。