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御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 ─再現模造にみる天平の技─@サントリー美術館

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正倉院宝物、というと、関連展覧会に何度も訪問していたけれど。
今回は全て再現模造品。
なんだ模造かあ、となるかもしれない、が。


第1章「楽器・伎楽」の頭に、いきなり模造の真骨頂が。
螺鈿紫檀五絃琵琶」。こちら、本物も模造も東京国立博物館正倉院展で拝見している。今回は、模造を作成している過程が映像でも解説でも詳しく。
現代で模造品を作成する時は、材料もそうだけど、内部構造も技術も当時と同じものを使うんだよね。内部構造はX線調査とかするそうな。
もうねえ…紫檀の本体に漆塗って、玳瑁(今って玳瑁って調達制限されてるだろうに…)と夜光貝を細かく細かく作って貼って(はめ込んで)いくわけで…。
で、弦は絹でできているんだけど、この絹は紅葉山御養蚕所の小石丸という日本在来種の蚕から。紅葉山御養蚕所=代々皇后が養蚕を行っている場所(「皇后御親蚕」)。ええ、まあ、由緒正しい絹を使っておられる…。
螺鈿紫檀五絃琵琶」の模造は8年かかったそうな。気が遠くなる…。
勿論、完成品はとても美しく。

さて、今回の模造、実は最近のものだけではなく、模造作成が始まった明治時代のものもある。
明治時代はX線などはないので、外見を残すことしかできなかったけれど。
たとえば、「螺鈿箜篌」は巨大な竪琴(グランドハープまではいかないけど、そんな感じ)なんだが、これは原本がもう正倉院には破片一部しか残ってなくて。
「後世に残す」という意味合いでは非常に貴重。

さて、改めて第1章「楽器・伎楽」。
楽器なので個人的には見ているだけで楽しいのだけど。
以前、東京国立博物館正倉院展でも拝見した「紅牙撥鏤撥」。この「撥鏤」(ばちる)って、技法のことだったんだね。象牙の表面を染めて、そこに彫刻を入れると白く絵が浮かぶのだけど、そういう技法なんだそうな。東京国立博物館正倉院展、そんな説明あったかな…。


第2章「仏具・箱と几・儀式具」。
「佐波理加盤」があって、佐波理の色を愛でる書き手。
「蘇芳地彩絵箱」は明治時代の模造だけれど、とても地の色が格好いい。
後は大仏開眼用に使用したのでは、という「天平宝物筆」(の模造)があったり。


第3章「染織」。
ここの絹織物各種も紅葉山御養蚕所の絹だそうで。ひええ。小石丸の絹と、他の外来種の絹の比較もあったけれど、絹糸の光沢の色が違うんだよね。面白いなあ。
ちなみに復元の染色材も、当時の日本のものを使用しているそうで、そのうち「日本茜」は、なんと皇居に自生していたものを、現在の上皇様が御存じでいらして、それを生育させて染色材にしたとか。
上皇様、学者肌なんですかね。魚類学者でいらっしゃるし。
さておき、染織なので個人的にもとても楽しく。美しいもの。
そして気になる「調」。租庸調の「調」。要は税として納める布も再現していた。伯耆国武蔵国は白い絁なんだけど、紀伊国からの布は橡=どんぐりで染めていて、なんともいえない深い茶色をしていた。いずれにしろ、これを作成して納めてたんだな…。
ちなみに7、8割方、この章の復元製作は川島織物だったりする。やはりこちらか…。


第4章は3階に降りて「鏡・調度・装身具」。
鏡とか漆塗りの箱とか、もうキラキラしていて眼福なんだけども。
東京国立博物館正倉院展では原本を拝見した、「紅牙撥鏤碁子」「紺牙撥鏤碁子」の模造があって嬉しかった(そしてこれも「撥鏤」)。
で、碁子を格納していた箱だと推定される「銀平脱合子」、こちらは原本も模造も、東京国立博物館正倉院展で拝見している。今回はもう少し来詳しくて、合子が巻胎(けんたい)技法という、板を何枚も貼り合わせて1枚の板のように使う技法で作られているという展示も。
ここには象牙で作成された「賽及筒」(要はサイコロ)や、ラピスラズリの大きなのがゴロゴロついたベルト「紺玉帯」や、美しく飾られた刀子(木管とか竹簡に文字を書いた時に、誤字を削って消す文房具)とか、見ていて楽しいものも沢山。


第5章「刀・武具」。
ここの章、全て明治時代の模造なんだね。
刀は儀礼用のが多かったようで、装飾がとても凝っていた。
「箭」(矢)も模造されていて、様々な鳥の羽を取り寄せて再現していた。


第6章「筆墨」。
墨や筆の模造もあったけれど、ここの主なものは古文書。
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実は奈良国立博物館で「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板」という展示を拝見しているのだが、ここではガラス原板だけでなく、コロタイプでの複写の話も出ていた。ここでコロタイプについて詳しく技法を知ることになるとは…。
で、ここで複写されていた古文書は、戸籍であったり、税の台帳であったり、写経の仕事をしている方々の給与計算とか、休暇願(!)とか。また面白そうなものを…。


眼福でもあれば、お勉強にもなる、良い展覧会だった。