時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

川瀬巴水 旅と郷愁の風景@SOMPO美術館

所用があってお休みを頂いた。で、所用の近くに行きたい展覧会がある、となれば。
www.sompo-museum.org

旧・東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館。SOMPO美術館に変わってからは初。そして場所が変わったことに最初気づいてなくて、かなり焦った(え)事前予約時間に間に合わなかったらどうしようかと…。近所移転で良かったね本当に…。


川瀬巴水の展覧会。近年結構多かったんだけど、遠いとか流行り病で全然伺えず。ようやく来られたよ…。


新しいSOMPO美術館は1階が受付、そのまま5階までエレベータで上がり、
5階→4階→3階と下っていって会場を見ていくパターン。2階が出口&ミュージアムショップ、土日祝のみ営業のミュージアムカフェ。この日は平日なのでカフェはお休み。まあ、所用があったので営業していても使えなかったけど。そうか、あの椅子が沢山並んでいる場所で営業するのか…。
ショップとカフェは美術館を利用しなくても使用可能。ショップも展覧会の時だけ営業だけど。


さて、本題の展覧会、なのだが。
最初に頂いたリスト、A3サイズ2枚。印刷内容はA4(要はA3だと2ページ分)、両面印刷ぎっしり。…つまり、A4サイズで8ページ?
展示作品数279、資料39。
これ、前後期で入れ替えがあって、それが全部リストに載っているからだけど、それでも前期後期ともに展示作品数191点、88点入替対象。
なんというボリューム…。川瀬巴水は新版画の作家で、サイズが小さ目(浮世絵と同じサイズ)だから、沢山展示できるのはそうなのだけど、これはまた…。
所用に遅刻したらどうしようかとヒヤヒヤした。大丈夫だったけど。
これから展覧会に行かれる方は、是非時間に余裕を持ってお出かけください…。


第1章「版画家・巴水、ふるさと東京と旅みやげ(関東大震災前)」。
今回の章立て、関東大震災と太平洋戦争で区切っている感じ。こちらは初期。
正直、解説はYoutubeの動画見た方が早いかと思う。

www.youtube.com
これでブログ済ませるのもアレなので。
巴水は紆余曲折を経て(途中で洋画習ったりしてる)鏑木清方の門下になるのだけど、美人画に行き詰った折に、同門の伊東深水の版画を見て、版画を手がけたら、これが好評でそのまま版画の道へ。
この時から終生、渡邊庄三郎の経営する「渡邊版画店」で作品を出すことになる。渡邊庄三郎の名前はこちらで聞いた。
morina0321-2.hatenablog.com
小原古邨が祥邨名義で発行していた時期だね。
巴水と渡邊庄三郎は本当に懇意にしていたようで、資料の写真も大概一緒に写っていた。今回の作品も実は殆ど「渡邊木版美術画舗」(現在の「渡邊版画店」の会社名)所蔵。
展示は、上述の通り、最初に好評を博した「塩原三部作」から始まる「初期作品」の流れ。そこから連作「旅みやげ第一集」「東京十二題」「東京十二ヶ月」と続き、更に三菱財閥から依頼された「三菱深川別邸の図」と続く。
「三菱深川別邸」は今の清澄庭園関東大震災で別邸は焼失してしまうので、直前(1920年)に依頼を受けて描いていることに。
ちなみに「旅みやげ第一集」「東京十二題」「東京十二ヶ月」は通期展示で、「三菱深川別邸の図」は前期のみ展示。後期は「旅みやげ第二集」「日本風景選集」が展示予定。…後期、第1章が物凄いボリュームにならない…?
全体的な感想なのだけど。巴水の初期作品なので、色々実験的なことをしているのが興味深い。「東京十二ヶ月」の「三十間掘の暮雪」は雪のけぶった風景を表現しようと、版木を荒く擦ることによって出そうとしていたり。そんな実験的なことをしながらも、初期にしてはもう随分しっかりとらしさが出ているというか。
風景が主題だけど、風景に小さく人を描き込む構図が多くて。人の表情は描かないのに、何故かその人の生活を思ったりしてしまう、そういう情緒というか、抒情的というか。
人は描かない絵でも、家からの明かりで人の気配を感じるような構図も多い。
あと、非常に個人的に気になったのが「旅みやげ第一集」の「金澤ながれのくるわ」。描かれている景色にデジャブが。
morina0321-2.hatenablog.com
記載はしていないのだけど、この時、ひがし茶屋街に入る前に散歩していたのが、主計町(かずえまち)茶屋街。こちらは浅野川沿いに、茶屋の昔ながらの建物が残っている。この景色がまま描かれていて。
調べてみたら、「金澤ながれのくるわ」の「ながれ」は主計町茶屋街のことを指すみたい(ひがし茶屋街(東山地区)を「ひがし」、野町地区のにし茶屋街を「にし」と言うのと合わせてる感じか)。
個人的にとても懐かしく思う景色。また行きたいなあ金沢(行きたいところ多いんだけどね…)。
今はもう残っていない風景もあるけれど、旅行好きな方は、自分の旅先の思い出にも触れられるかもしれない。


第2章「「旅情詩人」巴水、名声の確立とスランプ(関東大震災後~戦中)」。

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巴水の中期。実は関東大震災で、巴水のここまでの写生帖の多くと、「渡邊版画店」の版木・版画・資料が焼失。「渡邊版画店」はほぼ全焼だったそうで…。
それにも負けずに連作「旅みやげ第三集」を出して名声を確立。
その後は「東京二十景」「東海道風景選集」「日本風景集 東日本篇」と続くのだけど、「日本風景集2 関西篇」の後半や「新東京百景」、「元箱根見南山荘風景集」の頃には構図が似ている等指摘されて、スランプに陥ってしまう(1930年代後半)。日本の風景画なのだから、そりゃあ構図も似るだろうとは思うけど。
巴水の代表作「芝 増上寺」と「馬込の月」はいずれも連作「東京二十景」の1つ。
「旅みやげ第三集」「東京二十景」は通期展示、「東海道風景選集」「日本風景集 東日本篇」「新東京百景」は前期のみ展示。「日本風景集2 関西篇」と「元箱根見南山荘風景集」は前後期で個々の作品の展示が入れ替わる。
そうそう、「元箱根見南山荘」は岩崎小彌太の別荘。これも三菱財閥絡みの仕事。三菱財閥については以下の展覧会レポートにも書いてるかな。
morina0321-2.hatenablog.com
現在は「山のホテル」になってる。
展覧会前期は第2章が非常にボリュームがあって、5階半分・4階全て・3階にも少し展示がある状況に。


第3章「巴水、新境地を開拓、円熟期へ(戦中~戦後)」。

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巴水の晩年。
第3章は3階での展示になるのだけど、実は今回、3階の展示は全て写真OK。なので、第2章の「新東京百景」「元箱根見南山荘風景集」と、第3章はかなりの写真を撮る人になってしまった…(資料的な意味合いもある。メモだけで思い出せるような分量じゃないもの、今回)。
閑話休題。第3章は同門の山川秀峰(秀峰自体も素敵な美人画を描かれる画家だよねえ…)と朝鮮に旅行し、そこから連作「朝鮮八景」「続朝鮮八景」を作成し、スランプから脱出。
戦後、西洋から依頼を受けて制作した「The Japan Trade Monthly」や、パシフィック・トランスポート・ライン社の1953年のカレンダーの展示、「野火止平林寺」の制作過程を摺った「順序摺」の資料展示と、最晩年の作品「増上寺之雪」、そして絶筆「平泉金色堂」。最後の展示は流れとは別コーナー、「スティーブ・ジョブズと巴水」。ジョブズは巴水の愛好家だったそうで、購入した作品と同じ作品(版画だから複数枚摺られてる)を展示。
増上寺之雪」「平泉金色堂」「スティーブ・ジョブズと巴水」は通期展示、「朝鮮八景」と1953年のカレンダーの展示は前期のみ、「続朝鮮八景」「The Japan Trade Monthly」は後期のみ。
増上寺之雪」は集大成のような作品だった。御自身と妻と娘をモデルに、小さく人物も描いて。
「平泉金色堂」は絶筆で未完だったらしいのだけど、そのまま摺って完成させたのかな。ひとり石段を上る僧の背中がなんとも言えず…。
スティーブ・ジョブズと巴水」では、唯一、巴水以外の画家の作品が。橋口五葉「髪梳ける女」。五葉は横浜美術館で見たのが最初だったかな。素敵だよねえ…分かる…。
morina0321-2.hatenablog.com
ジョブズ所有の巴水作品で気になったのが「上州法師温泉」。鄙びた温泉で一人寛ぐ男性の図。この男性、巴水自身がモデルなのだそうで。旅の疲れを癒す一時なんだろうか。なんとなくほっこりと。


さて、ところどころにあった資料に(「野火止平林寺」の制作過程の資料以外は)触れてこなかったのだが。
残っていた写生帖がいくつか展示されていた。写生だけど(ざっと描いてるのもあるのだけど)、とても美しくて「これ作品でもいいのでは」とまで思うものがいくつか。高名な方の絵は写生でも本当に凄い…。


作品1つ1つにはそこまで触れるレポートにしなかった(というか、いちいち書いていたらキリがない…)けれど、個人的にはかなり素敵な展覧会だった。
その証拠に、ミュージアムショップでポストカードを買い漁り、更に「芝 増上寺」の、和傘の女性と雪だけをプリントした小さなトートバックもお買い上げ。
トートバック、家に沢山あるのに…。


この後は時間が結構ぎりぎりだったので、所用へ。
…所用済ませた後のネタは次へ。