時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

彩られた紙―料紙装飾の世界―@大倉集古館

大倉集古館は虎ノ門にある。今回が初めての訪問。

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あれ?じゃあ六本木(前回記事参照)から近くないか?と思って調べてみたら、サントリー美術館東京ミッドタウン)から歩いて20分ちょっと。
というわけで六本木を散歩がてらに歩く。スウェーデン大使館やスペイン大使館の間を抜けていくと。

都市風景の間にこの建物あるの、ちょっとびっくりする。しかも道を挟んだ隣がアメリカ大使館で、そちら側にこの建物と、仏像やら諸々の像が立ってたりするのが見えるんだよね…。大使館の方々、最初びっくりするんじゃないかしら。


本題。


いかにも書き手が好きそうな展覧会だったのでお邪魔した次第。
ちなみにこちらの展示会、出品リストに加えて解説がついたリーフレットもあり、とても親切。

まずは1階から。
奈良時代 写経の荘厳」。
「賢愚経断簡」で使用している紙は「荼毘紙」。なんでこんな名前なんだろう、と後で調べたら、紙自体はマユミから作られていて、そこに胡粉を混ぜていて、その胡粉や固まった樹脂の粒が骨片みたいだから「荼毘紙」だそうで。…凄い名前だなあ…。
ちなみにマユミから作られてる紙は大分古いみたいで、後年に楮に替えられるそうなのだけど、それでも高級和紙を差す言葉は「檀紙」(檀=マユミのこと)となるみたい。余談だけど、女優の檀れいさんは本名がまゆみさんで、それも一因で芸名がこうなったそうで。流石宝塚…教養…!
で、「古経貼交屏風」は古い経文を集めたものを貼って屏風にしたもの。この手の作品は経文以外でもあるけれど、なんというか…どこの時代でもどんなものでも収集マニアはいるのだなあ、と(そうなの?)お陰で後世の参考になるわけだけれど。
麻を刻んで煮たり臼ですりつぶして白くした「白麻紙切」や、石膏や石灰や陶土を混入させて白くした紙(プラス、墨の滲み止めで澱粉も入っている)とか、紫の紙とか。その中に混入している「二月堂焼経」とか。
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奈良時代の貴重な紺紙を残している方がここにもいらしたのだな…。

平安時代 王朝の栄華」。
「訶梨帝母経(神護寺経)」は紺紙金泥字。紺紙は仏教で重んじた七宝の1つ「瑠璃」の色に染める意味があったのですな。藍甕に何度も浸して染めるとのことで。金泥字は硬いもので磨かれた形跡があるとか。ちなみに「訶梨帝母」は鬼子母神のこと。
「貫之集下(石山切)」は変わった紙の色をしている。右側は緑。藍と黄蘗で染め重ねているそうな。左側は雁皮紙(雁皮から作成。和製唐紙とも言うみたい)に胡粉を塗って(具引きというそうで)、更に雲母摺りで模様を入れている。石山切については上記「二月堂焼経」のところで出した拙ブログ参照。
そして「古今和歌集序」。なんと国宝。正確には巻子本古今和歌集の仮名序(この部分が国宝)らしい。
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巻子本の巻十三は東京国立博物館で拝見している。これ凄いねえ…。紙は中国から輸入した唐紙で、竹紙で、雲母摺りに砒素が入っているとか(昔は普通に使われてるからなあ)、空摺りという具引きした紙の下に版木を置いて硬いもので擦り出す「蝋箋」という方式を使ったりとか。ちなみに「蝋を引いたように」見えるだけで実際には蝋は使ってないみたい。そして紙自体の色が様々で(これは巻十三もそうだった記憶)、とても美しい…。

「平家納経 善美を極める」。
平家納経は上記の古今和歌集を拝見した東京国立博物館の特集「書と紙ー平安時代の美しい料紙ー」にも出ていた。
田中親美の模本なのだけれど…模本にしても、とても美しい装飾で。元も凄いのかもしれないけど、模本自体も凄い美術品なのでは…。紙の色もとりどり(金銀、茜、朱色、紫…)、字の色も紙に映えるように変わり、金銀砂子も撒かれ…。

「料紙にもとめるもの」は時代が進むにつれて
一般に使われる契約にも紙が使われるよ、という例示で「東大寺文書貼交屏風」(これも収集マニアがいたのかなあ…)と、しれっと円山応挙関羽図」が。いきなりビッグネーム出してくるよ…。


ここからは2階。
まずは「さまざまな時代の料紙」。
奈良時代の、苧麻と楮と桑を使った紙の「百万塔陀羅尼」。
平安時代の、楮の紙を打紙(打って平らにする&つやを出すそうで)にして「紙屋」の印がある「悉曇要集記・悉曇集記加文」。「紙屋」の印は朝廷専用の紙を作成する「紙屋院」の関連ではないかと解説。京都の天神川の上流が「紙屋川」という通称らしいのだけれど、紙屋院がその辺りにあったから、という理由だそうで。
鎌倉時代の、檀紙の「山槐記断簡」。なお、檀紙は清少納言枕草子」で言及されている「みちのく紙」でもあるらしいとの解説。
室町時代の、鳥の子紙(雁皮と楮を混ぜて作成)に藍と紫の繊維を雲の形に漉きかける「打曇」を施した「古歌巻」。
室町というか戦国時代の、一刻も早く解決するために当時の一般の紙・杉原紙を使用して「責任者処罰しろ」の命令を出した(怖…)「武田信玄自筆書状」。
江戸時代、絹本で本阿弥光悦「詩書巻」。っていきなり本阿弥光悦出してくるの凄いね…。平家納経も所蔵してるし、大倉集古館ちょっと凄い(そりゃあオークラのグループなんだけどさ)。

で、2階にも存在する「平家納経 善美を極める」。
更に「田中親美の世界」が続く。
美しい「料紙装飾扇」と、冷泉為恭「藤原敏行加茂歌意・紀貫之逢坂山歌意図」が急に。冷泉為恭は実はサントリー美術館でも拝見していたりする。田中親美の父・田中有美(やまと絵の絵師)の師匠が冷泉為恭なのだそうな。そして冷泉為恭は田中有美の母方の従兄弟。御親戚!
で、更に「金銀箔散屏風」が。…美しい…。切箔・砂子・野毛をふんだんに。
凄いわ、田中親美…。

「江戸時代 美の継承」。
「思羽」「香包」が凄い。綺麗な紙に包まれてる香の数々。美しいなあ…。
個人的には「忍びね物語」、あまり救いのない話で(子孫は繁栄するからハッピーエンド、なのだろうか…)古来からの美意識が面白いなーとは思いつつ。

最後が「大津絵をたのしむ」。
ちゃんと「藤娘」もあるわけで。前の展覧会に続く大津絵…。
「鬼の念仏」は面白いね。田川水泡のらくろ!)旧蔵なのも分かる気がする。

で、実は途中に挟まっている感じだったのが、「フランス人間国宝の技【特別出品】」。
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懐かしい「メートル・ダール」=フランス人間国宝!シルヴァン・ル・グエン、この展覧会で拝見したものね。実は作業動画も拝見できる(タブレットを設置していて、それで拝見できる)。
なお、こちら、前期と後期で展示が変わるとのこと。


あ、そうそう、2階はテラスがあって、そこから外の景色が望める。
建物の前(というかホテルオークラ東京との間というか)に四角の水が湛えられている景色。
…ん?…あ!大倉集古館ってホテルオークラ東京と一緒にリニューアルされていて、谷口建築設計事務所谷口吉生が関わってる!
水使うのお好きですよねー本当に…。


最後に地下のミュージアムショップに寄って、終了。
思った以上に楽しかったなあ…。


帰りは虎ノ門ヒルズ駅から帰ったのだが。
行きに虎ノ門ヒルズ駅を使用するのはやめよう、と心から思った。
…江戸見坂がやばいよ。下りだったけど、坂道じゃなくて横の階段使おうと決断したぐらいだったよ…。