時々、さんざめく

とるに足りないニワカ趣味話(旅行、美術、酒etc)

あやしい絵展@東京国立近代美術館

www.momat.go.jp

3か月ぶりの美術館はこちらからスタート。展覧会の名前がなんだかエンタメ的ではあるけれど。

さて、この展覧会、写真がOKなものがいくつかある。半分以上はOKなんじゃないかな。太っ腹でありますな…。大部分が東京国立近代美術館所蔵じゃないんだけども。
展覧会自体は前期と後期で大幅に展示替えがあるのだが、一部公開期間が短かったりするものもあったりする。
展覧会は3章仕立て…だけど、2章が本編で1章はプロローグ、3章はエピローグ。時代で区切ってる。


「1章 プロローグ 激動の時代を生き抜くためのパワーをもとめて(幕末~明治)」。
いきなり美しい着物の女性の人形があってびっくりする。安本亀八「白瀧姫」。背中側からも拝見できるようになってるのが嬉しい。
後は歌川国芳月岡芳年の、怪異とか血生臭い系の浮世絵が主(芳年の「魁題百撰相 鈴木孫市」は嫌いじゃなかった)だけど、目を引いたのは肉筆画の曾我蕭白「美人図」。美女、というか…浮かべてる笑みに狂気孕んでるなあ…となるんだけど(恨みの感情を込めているとの解説)、不思議に魅力的で。
この絵、4/4までの展示で、しかもこの展覧会は大阪でも展示するけど、東京のみの展示だそうで。なんと…。


「2章 花開く個性とうずまく欲望のあらわれ(明治~大正)」。
本編。要は今回は明治~大正が主な範囲ということで。長いので更に5つに分かれている。

「2章-1 愛そして苦悩――心の内をうたう」。
藤島武二と田中恭吉が主。
藤島武二はロセッティやミュシャを一緒に並べて。確かにこの辺りの影響受けてる感じはする。「みだれ髪」の表紙とか「音楽六題」はかなりミュシャっぽいし(テーマで複数の絵作成するところが特に)、「婦人と朝顔」はロセッティの女性のよう。ただ、ロセッティが描くファム・ファタールの「強さ」はない感じで。逆に何を考えているか分からなくて、底知れない怖さはあるかもしれないが。
田中恭吉はエドワード・バーン=ジョーンズを一緒に並べ。田中恭吉は存じ上げなかったのだが、これもとてもよく分かる。ロセッティやエドワード・バーン=ジョーンズは以前ラファエル前派で拝見しているが。
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…ええとまあ、書き手がそのエドワード・バーン=ジョーンズが好みから外れておりまして…(あ)

「2章-2 神話への憧れ」。
青木繁。「大穴牟知命」はアーティゾン美術館で拝見したばかり。
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何故か特集コーナーじゃなくてコレクション選の方にあったけど。

「2章-3 異界との境で」。
ここは文学作品とのコラボが多い。谷崎潤一郎「人魚の嘆き」「刺青」、尾崎紅葉金色夜叉」等。
印象に残ったのは、まずは最初の泉鏡花高野聖」関連。目を引くのが大型の「高野聖、想夫憐の絵看板」。「想夫憐」は雅楽の作品にもなってるけど、これはどうなんだろう、そのままの夫を想う図、なのだろうか。
右隻の「高野聖」が鏑木清方、左隻の(恐らく)「想夫憐」は安田靫彦鏑木清方の描く女性は勿論安定の美しさなんだけど、安田靫彦が負けじと美しい女性と、美しい紅葉を描いている。豊川稲荷所蔵なのも面白い。
でもって「安珍清姫伝説」。強い表情で安珍を追う月岡芳年「和漢百物語 清姫」、対照的にふんわりと漂うような村上華岳「日高河清姫図」、そして小林古径清姫 鐘巻」…山種美術館の!


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ここで8つ全ての絵が出てたのが、書き手が最初に拝見したものだったかと。別の美術館で出逢うと不思議な感じ。
他は単発なんだけど、鏑木清方「妖魚」。所謂人魚の絵なんだけど、清方の描く女性の画で、こんな挑発的で妖艶な表情をするのは初めて拝見するかも。なんて素敵なんだ…。ちなみにこれも4/4まで。短いのが勿体ない。写真もNG。
他だと、名越國三郎の画集「初夏の夢」の「水のほとり」もなかなか良い雰囲気。

「2章-4 表面的な「美」への抵抗」。
要は女性の内面も描く絵。同時に、女性が社会的に表に出るような絵も出品。
波々伯部金洲(ははかべ・きんしゅう)の三越呉服店のポスター、北野恒富「朝のクラブ歯磨」ポスターが後者の代表。なんだろう…このセクションは濃い絵が多いので、ここで毒気を浄化する感じが(え)。北野恒富はこれだけ美しい女性描けて、今回同じセクションでとてもインパクトの強い「淀君」描いてるんだよね…。
ここのセクションの中心は甲斐庄楠音(かいのしょう・ただおと)なのかな。展覧会の代表の絵ともなっているけれど。
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甲斐庄楠音はこの時の展覧会で知ったけれど、まあ…インパクト強い…。更に岡本神草が続くからインパクト更に倍、そしてまた方向性が違う、所謂庶民を描いた秦テルヲもあるので、なんともこのセクションの濃さが…。
でも岡本神草「仮面を持てる女」は実は結構好きなんだけど。般若の面持って、綺麗な女性がむしろ無邪気ともとれる笑顔なのが。
ただ、嬉しかったのは、甲斐庄楠音に最初に出会った展覧会で拝見した梶原緋佐子「老妓」に再会したこと。梶原緋佐子は「唄へる女」もいいなあ。描かれてる女性が生活に疲れ果てた姿で、それでも力を込めて歌っている。
でもってここに島成園「無題」も。右目下の痣を隠すことなく前を向いて。

「2章-5 一途と狂気」。
鏑木清方が2点。大きな牡丹を背中に入れている「刺青の女」、近松門左衛門「冥途の飛脚」を題材にした「薄雪」。ただ、この2点は表情が一途そのもの、かな。勿論内面は狂気に踏み込んでるとも言えるけど。一途って怖いよね…(あ)
島成園「おんな」は長い黒髪が美しいのだけれど、脱げかけている着物が般若の面で、表情も般若を映しているようで。
そしてここで投入される上村松園「焔」。
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こちらは所蔵の東京国立博物館でお目にかかってはいるのだけれど、これこそ「一途が過ぎた狂気」。「源氏物語」の六条御息所が生霊となる姿だものね…。
「おんな」「焔」は4/4までの公開。


「3章 エピローグ 社会は変われども、人の心は変わらず(大正末~昭和)」。
メインは小村雪岱なのだけど、個人的には高畠華宵の絵に。普通に大正のモダンな少女絵を楽しむ。あ、でも、「サロメ」があったんだよね。「2章-1」でミュシャのポスターが出ていて、そこに「サロメ」があったので、地味に対比かもしれない。


全体的に濃い展覧会だった。後期も拝見したい絵はあるから、ちょっと気にかけつつ。